星月の栞図書館〜夜にだけ開く栞の扉〜
千葉 ゆう
Prologue:星月の栞図書館
星月の栞図書館——その存在を知る者はごくわずかである。
この図書館は、夜空がいちばん深く沈み、星が静かに降り始める瞬間にだけ姿を現す。
昼間の世界には決してその姿を見せず、誰かが気まぐれに見つけられるような場所にもない。
図書館は三階建てで、外観は古めかしくもどこか温かい。
石造りの壁には星と月の紋章が刻まれ、窓の奥からは淡い星色の光がにじむ。
その光は“本を求める心”を持つ者にだけ届き、道しるべとなって導くという。
図書館を管理しているのは、アステルと呼ばれる不思議な人物。
彼の外見は“見る者の心”によって変わるため、本当の年齢は誰にもわからない。
迷い、傷つき、心に色を失った者が扉をくぐると、アステルはその色を静かに読み取り、必要な本を差し出してくれる。
しかし、すべての部屋に自由に入れるわけではない。
三階には“月影室”と呼ばれる封印された部屋があり、そこには触れてはならない物語
——閉ざされた“色”が眠っているという。
この図書館は、訪れる者にとって導きであり、試練でもある。
ひとたび栞を落とした者は、再びそこへ導かれる運命から逃れることはできない。
そして——澪もまた、そのひとりだった。
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