第9話 半濁音の国パララム界へ

清音融合を会得したその夜、

和光の前にふわりと白い光球が現れた。


光球は

「ぽん、ぽん」

と可愛らしい音を響かせる。


和光が手を伸ばすと、

光球は丸い輪を描いて飛び回り、

やがて地面に“◯”を刻んだ。


中央に浮かび上がった文字は――


「半濁音の国へ来い」


和光は静かに頷くと、

◯の中心へ踏み込んだ。


パララム界の門


瞬間、世界が反転し、

柔らかな空気の海の中に和光は降り立った。


そこは、

白い泡が空を漂う国。


大地は軽やかな弾力を持ち、

踏むたびにやさしい音が響く。


パッ

ピッ

プッ

ペッ

ポッ


まるで世界そのものが

可憐なリズムで呼吸しているようだ。


するとその泡の中から、

一体の精霊が姿を現した。


丸い帽子のような光輪をかぶり、

弾むような声で言う。


「ようこそ、和光。

 わたしたちは《パ行の精霊》。

 ここは、半濁音のパララム界。」


パ行の精霊とは? — “やわらかい衝動”の化身


パ行の精霊は、

濁音のガ行とは違い、

“強いが優しい衝動”を司る存在だ。


精霊は説明した。


「濁音が怒りの爆発なら、

 半濁音は“生まれようとする意志”なのです。」


◇ 半濁音の本質


パ:最初の勇気


ピ:集中の芽


プ:内なる鼓動


ペ:境目を越える軽さ


ポ:完成に向かう円


パ行は世界の“決意の音”。


争いにも使えるが、

本来は、


何かを始める時のエネルギー


を象徴していた。


精霊は和光を見つめる。


「ガンと戦う前に、

 あなたにどうしても伝えたいことがある。」


半濁音のポウの言葉


最奥の神殿で待っていたのは、

ゆったりとした円の衣をまとった“ポウ”。


その声は風のように軽く、

しかし惑星のように深かった。


「和光よ。

 ガ行の怒りを止めるには、

 パ行の“決意”が必要だ。」


ポウは続ける。


「怒りは、否定すれば強くなる。

 でも、“生まれようとする力”がそばにあれば、

 怒りは目的を失い、静まるのだ。」


和光は思い出す。

ガンの怒りは強烈だった。


もしあれをぶつけ合えば、

世界は確実に割れてしまう。


和光が尋ねる。


「どうすれば、その力を使えるのですか?」


ポウはそっと和光の胸に触れた。


「あなたの清音融合に、

 わたしたち“半濁音”を織り込みなさい。」


新技:半濁音織り込み ― 《パルス環(パルスリング)》


ポウは手を動かし、

五つの泡を和光の周りに浮かべた。



それぞれが小さく脈打ち、

やがて“鼓動する輪”となって和光を包み込む。


ポウが言う。


「これは《パルス環》。

 あなたの清音融合に、

 半濁音の“生まれる力”を加えるもの。」


この技により和光は――

ガ行の怒りの衝撃を“柔らかく受け止める”

敵の力を暴走させず、ただ流し返す

自分自身の恐れや迷いも鎮める


半濁音は、

戦いを和らげるための音だった。


ポウは深く礼をした。


「和光。

 あなたは清音、濁音、半濁音すべてを理解しつつある。

 最後に必要なのは、

 “音の心”そのものだ。」


和光の胸の巻物が、

淡い白い光を放った。


次の舞台が開く


和光は覚悟を固め、

ポウに頭を下げた。


ポウが告げる。


「ガンは、あなたを待っています。

 その怒りを鎮められるのは…

 世界でただ一人、あなたしかいない。」


和光の旅は、

いよいよ濁音の城へ向かい始める。

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