第8話 和光覚醒

三柱の清音融合 ― 和光、覚醒の音へ**


三柱の修行の日々が過ぎたある朝、

巻物が突然、強い光を放った。


三柱――アン、イン、ウンが和光の前に現れ、

静かに告げた。


「今日、清音の究極“融合の音”を授ける。」


それは、

長い歴史の中で

選ばれた者しか習得できないという技だった。


第一段階 ― アンの光を芯に据えよ


アンは胸に手を当てて言った。


「清音とは“始まりの音”。

 中心に光の芯がなければ、

 どんな音も迷いの渦に溶ける。」


アンが和光の胸に触れると、

和光の心の奥に

金色の小さな光が灯り始めた。


その光は

怒りでも悲しみでもない、

ただ“生まれる前の優しい振動”。


和光は気づいた。


「これが、感情が生まれる“前”の音……」


アンが頷く。


「それを失うな。

 融合の音の中心は、常にこの光だ。」


第二段階 ― インの形を響きに変えよ


インが手を掲げると、

和光の周囲に無数の線が舞い上がった。


直線、曲線、螺旋。

そのすべてが微かな響きを放っている。


インが言う。


「光に“形”を与えよ。

 形とは、思考。

 思考なき光は、意志にならない。」


和光は胸の光に意識を合わせ、

その光から放たれる線を

丁寧に整えていった。


線は、

やがてひとつの“円環”を形づくった。


インは満足げに告げた。


「よい。

 それが“意思を持った音”だ。」


第三段階 ― ウンの流れで命を吹き込め


最後にウンが歩み出た。


水と風の気配が渦を巻き、

円環に触れた瞬間――

形は震え、

光は脈打ち始めた。


ウンが囁く。


「流れを与えよ。

 流れとは、生命。

 生命なき意思は、ただの記号でしかない。」


和光は深く息を吸い、

胸の奥でひとつの音を放った。


「……ん」


その瞬間、

金色の光、形、そして流れが

ひとつに融合し――


巨大な“音の輪”が和光の背後に生まれた。


それは静かで、

強くて、

優しくて、

一切の争いをほどくような響きだった。


三柱が同時に叫ぶ。


「それこそが――

 《清音融合(せいおんゆうごう)》!!」


和光の新たな能力:清音融合

《清音融合》とは


光(アン)

形(イン)

流れ(ウン)

この三つの清音の本質を

“ん”の中心で一体化させる技。


これにより和光は――


怒りの濁音に触れても飲まれない

相手の感情の前兆を読み取れる(アン)

相手の思考の形の乱れを理解できる(イン)

相手の心の流れを整えることができる(ウン)


つまり、


争いを生む前の“心の渦”そのものをほどく力


を得たのだった。


三柱は深く頭を下げる。


「和光、お前はすでに“清音の導者”。

 濁音の王ガンと向かう資格を得た。」


和光は静かに拳を握った。


「ガンを…

 否定するためではない。

 彼を、濁りから解き放つために行く。」


三柱は微笑んだ。


世界は、

少しだけ夜明けに近づいていた。

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