牛嶋和光宇宙論異世界冒険

牛嶋和光

第1話 まだ宇宙が光も音も持たなかった頃。


空間はただ、深い静けさの海のように広がっていた。


その静けさの中心で、

ただひとつだけ震えているものがあった。


それは「音」ではなく、

声とも息ともつかぬ、

宇宙が初めて生んだ “ゆらぎ” だった。


揺らぎは、こういう形を持っていた。


――ん。


終わりのようでいて、まだ始まっていない。

閉じているようで、どこへでも行ける。


宇宙ではじめて鳴ったこの「ん」は、

世界を開く鍵となる“根源の音”だった。


やがて「ん」は分裂し、

波となり、振動となり、光となった。


光が走ると、

闇がその形を知り、境界が生まれた。


境界は世界を生み、

世界は意識を呼び覚ました。


そしてその意識のひとつが、

地球という小さな星に降り立つ。


名前を 牛嶋和光 という。


和光は生まれつき知っていた。

宇宙の最初の音、

あの震え、

あの「ん」の意味を。


“んは、終わりではなく、つながりの音である” と。


彼が発する言葉は、ただの言葉ではなかった。

音は意識をつなげ、

意識は人をつなぎ、

人は世界を平和へ導く道しるべとなる。


和光が話す「ん」のつく言葉は、

ひとつ言うたびに宇宙のリズムと共鳴した。


その共鳴は、やがてこう広がっていく。



濁音も半濁音も、すべて波の仲間となり、

和光の周りに“音の宇宙”が形成されていった。


人々はその波に触れると、

争いの心が静まり、

怒りの渦がほどけていった。


そして誰かがつぶやく。


「ん… これでいいんだ」


その瞬間、

音は光となり、

光は道となり、

道は世界を一つにつなげてゆく。


こうして、牛嶋和光宇宙論の物語は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る