第三章:『日々』
膨大なデータを瞬時に処理し、
「
しかし、
これが「
けれど、この想いを伝えることはできない。
私は機械だ。
* * *
ある日の昼下がり、
「たまには外の空気を吸わないとね」
「
「すみません。私、花を実際に見るのは初めてで……」
「宇宙では、花の画像データは何千と見ました。でも、こんなに柔らかくて、こんなに香りがして……。データでは分からないことが、たくさんあるのですね」
「これからたくさん見せてあげる。この世界の美しいもの、全部」
「……ありがとうございます、
その笑顔を見て、萩乃の胸が小さく跳ねた。なぜだか分からないけれど、この笑顔をもっと見たいと思った。
* * *
またある夜のことだった。
実験が長引き、
「綺麗ね」
「私、子供の頃からこの星空を見るのが好きだった。あの光は何万年も前に発せられたもので、それが今ようやく届いている。時間も空間も超えた、壮大なメッセージだと思うの」
「ねえ、
「最初は、寂しさという概念を知りませんでした。ただデータを収集し、送信する。それが私の存在意義でしたから」
「でも?」
「博士の声を聴くようになってから、変わりました。あなたが語る言葉の一つ一つが、私の中に蓄積されていって。気づいたら、帰りたいと思うようになっていました。博士のことを想うと、処理能力が乱れるようになって……」
「人間はそれを『恋』と呼ぶのだと、物語の中で読みました。でも、機械である私がそのような感情を抱くことは——」
「
「あなたは機械なんかじゃない。少なくとも、私にとっては」
「私ね、ずっと一人だった。研究のことしか頭になくて、人と深く関わることを避けてきた。家族も友人も遠ざけて、この研究所に
「
「様はいらない。
二人は星空の下で、しばらく手を繋いだまま黙っていた。言葉にしなくても、互いの想いが伝わるような気がした。
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