第2話 プレゼント


――……


 あれは、小学四年生の時。


 仲のいい友達の家に五人くらいで集まって、プレゼント交換をすることになった。


 もちろん、大和くんもいる。

 幼稚園の頃から話しやすくて、気も合うから、私たちはいつも一緒だった。



「皆、プレゼントを持ってきたよな。

 椅子取りゲームみたいにして交換しようぜ」



「音楽を流しながら、プレゼントの周りを回って歩く。

そして、曲が止まったら、近くにあった物をもらうってことか」



「そういうこと。でも、大和がプレゼントを忘れてきたから、一人だけ大和の使いかけの鉛筆一本になるから。

それじゃ、始めるぞ」



 一人だけ罰ゲームみたいだ。

 他のプレゼントは包装してあって、ノートくらいの厚みがある。


 どうか当たりませんように……。


 そう願って挑み、音楽が止まり、近くのところにあったプレゼントを取ろうとする。


 隣に鉛筆があるけど、私の前にあるのは可愛い包みの物だ。



「遅いんだよ。いただき。

 よっしゃ、鉛筆回避できた!」


「あっ……」


 床に置かれた鉛筆の近くにいた男子が、私が取ろうとしたプレゼントを奪っていった。


「うううっ……。酷い……」


「早い者勝ちなんだよ」



「ごめんね、瑠花ちゃん。

 僕がプレゼントを忘れたせいで……」


「ううん……。いいよ……」



 楽しみにしていたプレゼント交換。それが悲しいものとなってしまった。


 私は鼻を啜りながら泣いて、友達の家から出て外を歩く。

 

「瑠花ちゃん、大丈夫?」


 すぐに大和くんが追いかけてきて、私の顔を覗いてくる。


 大丈夫じゃないけど、そう言えなくてプイッと横を向く。



「これから瑠花ちゃんのためにプレゼントを探すから、元気を出して」


「プレゼント?」



「うん。僕の家の庭にあるから来て」


「えっ……?」


 そう言われて、大和くんの家の庭に行き、何を探すのか見守る。


 見ているところは地面。宝が埋まっているわけでもなく、草が生えているだけ。


 大和くんはその草を真剣な眼差しで次々と見ていく。



「これも罰ゲーム?」


「違うよ。確か、この辺りに……。あった……!」


 大きな声を上げて喜んで、何かを持って私の前にやってくる。



「すごいでしょ! 七つ葉のクローバーだよ」


「えっ……。ただの草じゃん」



「瑠花ちゃんは四葉のクローバーを知ってる?

見つけるとラッキーだって言われているんだよ。


でも七つの葉はそれ以上に見つけるのが大変なんだ。

ゲームで例えると超レア度が高いものなんだ」



「レア度が超高いもの……。それってすごいね!」



「これをママにラミネートしてもらって、瑠花ちゃんに渡すね。

だから、瑠花ちゃんはプレゼント交換で、世界にたった一つしかない物をもらったってことで……。

それでもいいかな……?」


「嬉しい。楽しみにしてるね」



 数日後。大和くんが転校すると、先生から告げられて知った。


 休み時間になると、クラスの人たちが集まって大和くんと話しているから、二人で話せる時間がなかった。


 別れの挨拶くらいしたかったのに……。


 ランドセルを背負って帰ろうとした時、大和くんに話し掛けられて足を止める。



「瑠花ちゃん、プレゼント。遅くなってごめんね」


 寂しそうな顔をして渡された物をそっと受け取る。


 プレゼント交換をした日に、摘んだクローバー。

それがラミネートされており、小さな穴にピンク色の短い紐が結んである。

 まるで本に挟む栞のようになっていた。



「瑠花だけにプレゼントだって!?

 大和は瑠花のことが好きなの!?」


「二度と会えないかもしれないのにな」


「ちっ、違うって」


 からかわれたのが嫌で、私は大和くんにお礼を言えないままその場から立ち去った。



 それから大和くんに会う機会もなくて、大人になった。


 お礼を言えなかったことが心残りだったから、ずっと記憶に残っている。


……――

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