あなたが繋いでくれた幸せな未来

ろあ

第1話 幼馴染


 会社帰りにカフェに寄り、席に座ってコーヒーを飲みながら本を読んでいた。


 仕事で疲れた心を休めることができるこの時間は、私にとって一日のご褒美になっていた。



 今日は雨が降っていて憂鬱だった。


 それでも、このカフェのコーヒーを飲むと落ち着いて、天気なんて気にならなくなる。


 コクが深くて濃厚な味。それは、大人になってから好きになった。


 そのコーヒーの香りに癒やされながら、本を捲っていると、挟んでいた栞が床に落ちてしまった。


「あっ! 栞が……」



 これは最悪だ……。隣のテーブルの下に落ちてしまった。そこの席には、人が座っている。


 しかも、その人の足元に私の栞がある。手を伸ばしても届かないし、屈んで近づいたら怪しまれてしまいそうだ。


 栞を取るために、勇気を出して話し掛けてみることにする。



「すみません……。

 足元に栞を落としちゃったんですけど、取ってもいいですか?」


 隣の人も本を読んでいた。

 邪魔をしてしまって申し訳ないと思いながら、私は軽く頭を下げる。



「えっ……!? こちらこそ気付かなくてすみません。

 栞はこれか……。

 足元が濡れていたせいで、汚れてしまいましたね……」


「そのくらい大丈夫ですよ。

 落とした私が悪いので……」



「とりあえずティッシュで拭いて返しますね。

 ……って、まさか、瑠花(るか)ちゃん?」


「ん……? もしかして、大和(やまと)くん!?」



「そうだよ。僕のこと、覚えていてくれたんだ」


 私の大切な栞を拾ってくれた人は、幼い頃に仲が良かった友達。大和くんだった。



「もちろん覚えてるよ。

 幼稚園から一緒だったけど、大和くんが小学四年生の時に転校したよね」


「そうそう。あの頃の友達には、もう覚えられていないと思ったよ」



「最初は気付かなかったけど……。

よく見たら子供の頃の面影がある。格好良くなったね」


 子供の頃から変わらない黒い髪と一重。

 優しい視線を向けてくるところも同じだけど、大人になった今は凛々しさを感じる。 



「瑠花ちゃんも綺麗になったね。いや、前から可愛かったけど」


「もう、お世辞はいいから」


 私が子供の頃から変わったのは、短かった髪を肩まで伸ばして、ダークブラウンに染めただけ。

 あとは化粧をしていることくらいだ。



「その栞、大和くんが私にくれたの覚えてる?」


 大和くんが拭いてくれている私の栞は、クローバーをラミネートした物だった。

 そのクローバーは緑色じゃなくて、枯れてしまっているけれど……。


「うん。一生懸命に探したから。七つ葉のクローバーは幻とも言えるみたいだよ」


「究極の幸福って意味もあるんだよね。

 私、気になって調べたことある」



「瑠花ちゃんのために探したから、転校する前にこれを渡せて良かったよ」



 子供の頃にもらった贈り物の中で一番記憶に残っている物。だから、今でもそのきっかけを思い出せる。


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