第2話 『Escape The Position』
――そうして計1時間20分、5つの内1つの区域が壊滅した。
「さて、そろそろ仕上がったかな?」自信ありそうにアビリティ『模倣』を解除する。
気づけば、東区は物音のないただの廃墟へと変貌した。そこへ、見覚えのある姿の女性が現れる。
「一体...。どうしてしまったのですか?」ラメアが目を向けるとそこには馴染みのある元同僚が立っていた。
「あー、君か。なんでここに?」まさかのタイミングでバレたか...。めんどうだな。
「やっぱり無茶してたんですね。」
「いや。無茶なんかじゃない。目的がわからなくなっただけだ。俺らは今までこの東区を守るという目的で動いてきた。だが、2週間前のことを思い出すと...。目的が変わった気がするんだ。」
「今からでも、やり直しませんか? 」
皮肉なことに、ラメアはこの結末を見てもミヤは怒鳴ることはないとわかっていた。それは、ミヤ自身はアビリティによってさまざまな『結末』を辿ってきたからだ。1つ例をあげるとすれば、別の世界で一昨日の夜にラメアが自殺する結末もあった。ミヤの目の前でタナトが殺される結末もあった。それに比べれば、自分たちを嫌っていた人間が殺戮されたところで、逆にミヤ自身も救われた気がしたのだ。
「いや、そういう訳にはいかないんだ。俺はこの世界をね、――する。」
「すみません、よく正確には聞き取れま――」次にミヤが瞼を開けたときには、ラメアに首を掴まれていた。その体はわずかに宙に浮かんでいた。
苦しいし、痛い、まあ当然の事か。
ミヤはラメアに対して抵抗もしなかった。なぜなら、ラメアが殺してくることは絶対にないとわかっていた。それも全世界線で。
「悪いね。元上司として言わせてもらう。俺はこの世界を『再構築』する。」そう言い、ミヤを突き放した。同時に、ラメアは『ミヤのアビリティの解析』を終えた。これが示すのはただ1つ。ミヤのアビリティはコピーされたのだ。
「これで終わりだね。治安警備部第7課は...。仕事の引継ぎを頼んだよ。」そう、ラメアが言い放った時には既にミヤは気を失っていた。それと同時にラメアは自ら滅ぼした地を後にした。もう1人いることには気づかずに。
「ミヤさん!!起きてください!アイツはもうここにいませんから!!!」
―――同時刻 中央管理区内
「まさに危惧していたことが起こりましたね。」
「だから言ったんだ。アイツなんか退任させるべきだったんだって。」
東区が襲撃されたことに気づいたのは、すでに壊滅した後だった。
いくら中央管理区とはいえ、イレギュラーな存在が暴走するなど想定はしていたが、対策はできなかったのだろう。
「で、どうするんですか?我々がアイツの責任を負わなければならないのです?」
「いや、その必要はないさ。じっと眺めてればいい。いずれ自爆する。逆に喧嘩腰だと面倒なことになるからねー。面倒事は嫌いなんだよねー。」
「とはいえ、統帥いくらなんでも...。」彼が戯言を言い終わる前に、すさまじい轟音が鳴り響いた。気づけば、1人が血を流して倒れこんでいた。
「中央にもさー、こんなレベルのやつがいたんかー。残念だなー。」
―――東区壊滅後
さてと、単独での行動はすこしやりにくい。昔の仲間に連絡してみるとするか。
ラメアの友人関係は、『狭く深く』という関係性が多かった。だからこそ、頼りになる仲間に心当たりはあった。右手の腕輪に触れるとタッチパネルが浮かび上がった。
慣れた手つきでタッチパネルを操作していく。ラメアの友人リストは7人しかいなかった。そのため、昔の仲間に連絡するのに10分も満たない。
試しに5人に連絡をしてみた。意外にもそのうちの1人は一瞬で返信が来た。
その他4人についてはいろいろあるのだろう。
とりあえず、あとは待つだけだな。
30分して集合場所には意外にも4人集まるらしい。
「おいーす。結構お久じゃん」最初に声を掛けて来たのは、長髪のいかにもダルそうな見た目の『ラル』だ。コイツとは高校で出会って、一緒に謹慎になった奴だった。
「意外と元気そうで良かったよ。その元気がないと行動できないしさー。」
「おめえは昔からそういうことばっか言ってきたな~。なんか懐かしーよ。」同じ高校の同級生2人。その会話は意外にもすぐに終わった。
「おい、そこの。長髪のお前は関係ない。ラメア。お前をここで殺す。」目の前には服装からして、おそらく中央管理区から来たと思われる人物がいた。
「あーはいはい。今さ、やっと同級生と会ったばっかなんだよね。ちょっと邪魔しないでもらえ――、」
言い終わる前に、ラルが邪魔者を消し去っていた。あまりにも早すぎる判断に、ラメアは少しドン引きをした。
「ねえちょっとさ、片づけるには早すぎるって。」
「んなことはない。いくらなんでも――」
ここで1つラメアは名案を思い付く。
「てかさ、どうやったの?てか初めて見たそれ」
ラルのアビリティは見たことなかった。推測からして、絞り込んだある対象を別の場所に転移させるのか?まあ、いいや。良い感じにパクらせてもらうぞ。
「ねえねえ、それってどういう"仕組み"からできてるの?」
「あー。こりゃね、空間に穴開けるような感じに近いんよ。『パントマイム』っていうんやけど。見ててみ。」ラルは意外にも実際にやって見せてくれた。ラメアにコピーされるとは知らずに。
「なるほどね~。すごいじゃんこれ」
「やろ?意外と応用が大事なんかもしれんわ。なんつったって、これってよ、次元の理解が必――」
「すみません!ここで合ってますよね?」面倒な長話が始まる前にラメアは救われたようだ。ラメアが呼んだメンバーの1人が到着した。キイラだ。
「え?もしかして君、キイラ?見ない間に結構変わったね。」
キイラは治安警備部第7課の元同僚だ。4か月前に病を患って、第7課を引退した。その後はアビリティ覚醒の影響により、周りからの境遇に苦しんでいたという。
「まあ、そりゃあ4か月もあれば変わるにきまってるじゃないですか!」
「うんうん、そーだよね。でさーアビリティなんだけどさ、」
「いやいや。その、なんでそんなに適当なんですか?」
「だって、その、ね。4か月も話を耳にしなかったからさ。」流石に会話が適当すぎた。ちょっと我ながらやばいね、これは。
「それで、アビリティは未来を曲げるって感じですかね?自分でも使いこなせてないんです。」
おお、これは普通に使えそうだ。自分の好きなように使えば、簡単に邪魔を消すことだってできるぞ~~。
「ちょっと、聞いてました?」
「ああ、ごめんごめん。聞いてたよ。ただ、そんなことが本当にできるのかなって」
聞いただけじゃアビリティの理解は全くできないし、見せてもらうとするかな。
「じゃあさ、今から俺はある行動をします。それは何だと思う?」
「え?なんか殴って来るとか?ですかね。」
いいや、違う。俺の答えは、ここで”俺がお前を殺す”でした。 次の瞬間、ラルから奪った『パントマイム』によってキイラの頭上から車両が落下しだす。
数秒もしないうちに車両は地面へと衝突した。
「おいおい、大丈夫か!」この場に他の人物がいたら、ラメアのあまりに雑すぎる演技に腰を抜かしただろう。
車両の落下と同時に舞った砂ぼこりも消えていった。それと同時に、確かに”未来が変わっていた”ことを目にした。
それは間違いなくキイラの頭上に落としたと思われた車両がなぜかラルの方へずれていたのだ。
「ちょっと!!危ないどころじゃないですけど!なんですかこれ!!」
「ラル、普通にそれ危ないよ?」
あまりにも平然とした態度でラルへ責任転換し出す。
「んあ?ごめん、俺なんかやっちった臭いな」 ラルがバカで助かった~~。普通にラルのアビリティをパクったこともバレてなさそうだ。ただ、結局アビリティに対しての理解はできなかったのは残念。
「――あとちょっとだけ、ずれてたら死人が出てたね。もしかしたら、それは私だったりして。」
「え?もしかして、あの美人の方もラメアさんが呼んだんですか?」
「いや――、呼んでないね。」
そこに現れたのは見たこともない女性だった。
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