『The Peacekeeper』

@Kjyouyuki

第1話 治安維持組織 『The Guard』

―都市『ライトメア』

ここは、主に「データ」のやりとりが中心の街。5つの区に分かれており、北区、東区、西区、南区、そして中央管理区がある。

 治安維持のために、中央管理区から派遣される組織 『The Guard』が存在する。

『The Guard』は、治安警備部・データ管理部・特務部の3つを持っている。その他の行政や司法に関する組織は、他の団体で管理している。

 

東区に住むラメアは、治安警備部第7課として今日も身を捧げていた。

 

 「本日の業務はここまで、お疲れした~。」


治安警備部の主な内容は街で起きた事故や事件に対して対応する。

過去に起きた事件のデータは持つことができないため、治安警備部はその都度、その課の代表の判断によって対応している。


「ラメアさん、明日、私は休暇日になりそうですか?」

長い黒髪で少し鋭い目つきをしている彼女。ラメアとは出会って約2年。現場では、兄弟かと思われるほど素晴らしい連携を見せる。彼女の名は『ミヤ』


「あ~そうだね。明日働くともう2週間連続勤務になるから休んだ方がいいね。」

「もうそんなに経つのですね。随分と大変でした。」

「それは俺も、いつもだけど最近マジで寝れてないよ~」

 そういうラメアの表情には苦悩と葛藤が写っていた。


2週間前、東区の区民が一気に脅威に晒された事件が起こった。


『年暦102年―東区「翠天町」焦土事件』どのメディアにでも、取り上げられた『ライトメア』史上最大のテロ事件。当時「ライトメア再構築部隊」という民間人派閥が存在した。その派閥は、ライトメア中央管理区のデータ管理に対し、強く不満を持っていた。派閥のメンバーの科学者であった故・タニヤ氏は反物質を利用し、新たな兵器を開発していた。しかし、反物質が物質と触れて起こる現象「対消滅」を引き起こし、翠天町は一気に焦土へと化した。

 「ライトメア再構築部隊」を放置していた東区の治安警備部に問題があったとして、第7課が特にほかの区域から批判された。実際、中央管理区は第7課に対して派閥への手出しを禁じるよう命じていた。とはいえ、もともとは第4課が必要以上に接触したことが原因であった。


この1件は最終的に、第7課が招いたものとして区民からは認識された。そのせいもあり、東区での暴動はさらに盛んとなった。主に第7課の代表であるラメア氏の退任を求める暴動や、第7課の解体を求める暴動だ。

 2週間前は、のんびりと道案内や素行不良そうな人間を摘発するだけだった。

今となっては、暴動の原因となっている人物が、その暴動を止めに行くというなんとも皮肉な状況だ。


「ですが、少し私は心配ですよ。」

「いや別に大したことじゃないから、心配しないでくれ。まして、君に関することではないから。」

「そうおっしゃるなら...。」

ミヤはそう言いはするも、頭の中ではラメアが誰よりも強いことを分かっていた。


 彼が持つ『アビリティ』と『ラメア』の相性は最恐と言われている。実際、中央管理区ですらも、ラメアの存在を危惧している。

 『アビリティ』と言われるものは、自身に能力を付与、または自身を覚醒させる物質だ。ライトメアでは、誰しもが手首に腕輪をつけており、そこに『アビリティ』を含むUSBレシーバーのような小型なパーツをさし込む。すると、身体中が血液と共に『アビリティ』で染み渡る。血液と共に全身を巡れば、新たな能力の開花となる。


 そんな、最恐と言われる彼が持つアビリティは『アビリティのコピー』だ。ラメアが、相手のアビリティをおおよそ「理解」した瞬間、自身の肉体へインストールすることが可能である。また、彼自身は能力をいくつも保持することができる。だからこそ、最恐かつ最強なのだ。


「だから、大丈夫だよ。俺だから大丈夫っていうのもあるけどねー」

「承知しました。それでは明後日に。」そういい、心配そうに第7課のオフィスを後にした。

 「ラメアさんなら、大丈夫。」最強との同僚である彼女は帰路でそう呟いた。


時刻は27時過ぎ、第7課のオフィスの一室は光が灯ったままであった。

「さて、そろそろこの都市を転覆させるか。」彼の眼には何も無かった。憎しみも怒りも、悲しみさえも―。



数十時間後、第7課のオフィスでは混乱に満ちていた。


「すみませんが私にもよくわからないです。昨日は休暇だったばかりで。」

昨日、ラメアが失踪した。ミヤの記憶にあるのは「俺だから大丈夫」と得意げに話していたラメアの姿。


「うわー、それ結構やばいっすね。僕なんかじゃ何にもできないのに...。」

1番ショックを受けていたのは、治安警備部第7課としてラメアの姿を追っていた少年「タナト」だ。彼は自身のアビリティの覚醒により、2か月で第7課へと飛躍した。

治安警備部第7課のトップ3と言えば「ラメア」「ミヤ」「タナト」が挙がるくらいには強い。


「とりあえず、どうすればいいっすか?僕にできることがあれば、なんでもやらせてください!!」

「とは言われても、やることと言えばラメアさんを探すか、とりあえず警備活動をするくらいしか...」ラメアは疲労によって休んでいるだろうと考えていたミヤだったが、

「わかりました!!じゃあラメアさんを探しに行きましょう!!今日はそれで!!」

ミヤが警備活動を選ぼうとしたときには、タナトはもう結論を出していた。

「わ、わかりました...!ですが、規則の9時以降の活動には参加しないでくださいね。上からすごく怒られるんですから、ね?」

「はい!!!」


こうして、普段では考えられない異質な2人での共同活動が始まった。大体の警備においてはラメアとミヤの二人で解決することができてしまう。そのため、この二人のコンビは史上初だ。



――それと同タイミングで、東区の地方にて

「やめてくれ!!俺はなにも知らなッ!!!」彼が「知らない」と言い切る前には、首も言葉も無くなっていた。

 ラメアによる転覆計画が実行されていく。区民に自身の存在がばれないよう、アビリティ『模倣』の手は打っていた。このアビリティは殺す前の人間に偽装することができる。

 ただ、彼自身にもどうにもできないことがある。それは、『殺戮事件が起きている』という情報の流出を防ぐことだ。「しかし、地方であるがゆえに、情報の流出までに時間を要する」という推測のもとで、殺戮を続けていく。


 何年ぶりだろう、この感覚は。悪いとはわかっている。ただ、申し訳ないとは思わない。強いて言うならコイツらがこの地に生まれたことが悪かったんだな。


 彼の眼にはもう何もない。2週間前まであった善意に満ちていたあのまなざしも。

ただただ、自分の目的を遂行するためだけに、この都市から数値を減らしていく。「ミヤがこの様子を見たらどう思うだろうか?」なんて考えはするものの、「アビリティを使っているため結局バレることはないよね~。」と余裕ぶっていた。


――30分して東区の3分の2が壊滅したと同時に

「まさか、ラメアさんが殺戮を?理解、できません。そんなはずは...。」遂に、彼の元同僚であったミヤがアビリティ『L.F』を駆使して特定した。ミヤは情報探知に優れたアビリティ使いで、『全世界線の今後の人の動向・パターンを特定する』ことができる。彼女は人物を「ラメア」に絞り込み、数多の世界線から推測した上で、「ラメアが殺戮をしている」ということを特定した。

 ただ、この時点でラメアは元同僚であるミヤに、特定されていたことは気づいていなかった。

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