魔法都市の生活防護課~異世界転移した女子高生、警察官見習いはじめました~
新矢識仁
第1話:異世界、初めての朝
ひく、とまぶたが動いた。
あれ。
あたし、何してた?
確か、一学期最後のホームルームに先生がなかなか来ないんで外を見てみると真っ暗で、教室が割れて暗闇に放り出されて。
――その先が、ない。
目を開ける。
……少なくとも、学校内じゃない。
大理石? でも大理石は発光しない。柔らかい光を放つ石で作られた、高い天井。
体を起こそうとして、柔らかいシーツで覆われているのが分かった。簡易ベッドみたいなのがあって、そこに寝かされてたんだ。
みんなは!?
半身を起こして見回すと、同じベッドが並んでいて、そこに寝かせられているクラスメイト。
うなされてたり、涙を流したりしている
目で人数を数え、顔を確認し、力が抜けた。
……よかった。本当に、よかった。誰も欠けてない。
そして、辺りを見回す。
やっぱり白い石で作られた床、壁。壁は真紅と金のタペストリーのようなもので飾られている。
ここは、一体、何処?
「あ~、ほら、やっぱ起きてた」
女性の声がした。
「よかったわ。あなたの勘がなかったら、パニックになっていたかも」
もう一人、女性の声。
そっちを見ると、重そうなドアがあって、そこから二人の、あたしたちと同年代位の人が入ってきた。
一人は金髪ポニーテールの、気位の高そうな娘。
もう一人は、銀髪ショートに狼みたいな耳を持つ娘。体つきはがっしり系。……あたしほどじゃないけど(部活で鍛えてるから)。
どちらも、明るめのロイヤルブルーに黒の装飾の施された制服を着ている。
「はじめまして。私はリリア・グランフォード。彼女はフェリシア・ノールズ。【
にっこり微笑んで綺麗なお辞儀をするリリアさんに、あたしも何とか答える。
「
「ここは、レグナシア王国首都、セントラル・レグナの中心たるフィルブランシュ城、その【
……意味わからない。
「リリアは説明がちょっと固いなー。えっと、ここはミツキが今までいた世界とは別の世界。レグナシアって国のお城の中!」
フェリシアさん、ありがとうございます。やっと理解できました。
ということは……。ここ、異世界……?
頭がぐらぐらする。
慌ててベッドから降りようとして――シーツに足を引っ掛けた。
「ちょ、落ち着いて」
慌ててフェリシアさんが駆け寄って身体を支えてくれるけど、まず確認しなければならないことが。
「わたし……わたしたち、帰れますか? 元の世界へ!」
リリアさんとフェリシアさんは顔を見合わせて、申し訳なさそうに言った。
「この世界から出る方法はある、と聞いています。ですが」
「出るだけで、元の世界に戻れるって保証はないんだ」
……っ!
……いや、受験とか、卒業とか、そんな現実的な未来は綺麗サッパリ消えた、と言うことは理解した。
だけど、小さい頃からの夢が……ずっと目指してきた未来も綺麗サッパリ消えたってことで。
あたしの、「警察官になる」って夢は……ここで終わり? あんなに頑張ったのに……?
どうして……どうして、こんな――。
「ごめんなー、この国は、異世界……特に「二ホン」って呼ばれる国からの転移者が多いんだ。だけど、誰も元の世界に戻ったって話は聞かない。みんなこの世界に骨を埋めることになった」
「ちょっと、フェリシア巡査っ」
「仕方ないだろ、事実は話すしかないよ。あとで「話が違う!」ってなったほうが大変だよ」
「フェリシア巡査の言う通りだな」
低い、眠たげな男の声が割って入った。
「カエレン巡査」
ふわふわと宙に浮く大きな箱や袋の束が目に入った。……浮いてる!? これ魔法ってヤツ? 風船みたいに紐でまとめられた荷物を、カエレン巡査と呼ばれた人が引いている。なにこれ。
とにかく、大荷物を連れて? 入ってきたのは、先の二人と同じ制服を着た、黒髪の男。
「ったく、荷運びの途中に「何か予感がしたから失礼します」じゃない」
風船を持つように引っ張っていた荷物を床に降ろして、カエレン巡査と呼ばれた男は背を伸ばし、胸のポケットに手を突っ込むと、黒いキャッシュカードみたいなものを取り出した。
「あー、こちらカエレン・ミストライダー。物資搬入終了、転移者一名覚醒につき、対応を開始する。どうぞ」
『了解』
え? カードが喋った……じゃなくて、あのカード、携帯なの? あの薄さで?
「対応するって結局私たちばかりじゃない……」
ぼそっと呟いたリリアさんに、カエレンさんは欠伸を噛み殺すような声で言った。
「それがお前らの仕事だろうが。俺は大荷物の誘導。あと連絡。転移者がみんな若い女ってわけでお前らが派遣されたんだ、ちゃんと仕事しとけ」
じゃーなーと手を振ってカエレンさんは出て行く。
「あのう」
何か気まずくなった空気を振り払おうと、あたしは勇気を出して話しかけた。
「お仕事って、何してるんです?」
衛兵とか、騎士とか、そんなの?
「警察官です」
え?
「ですから、け・い・さ・つ」
え?
「フェリシア、ミツキさんが固まってしまったのだけれど」
「あれ? ミツキ、二ホン出身じゃないの? この国の警察制度、全部二ホンの真似だからさ」
慌てて言い直す。
「本当に、お二人とも、警察官……?」
「そーだよ」
「階級は巡査。さっき出て行ったカエレンも同じです」
この青色の制服、見覚えがあると思ったけど……。
本当に警察官? 異世界に?
「ですから困った時はいつでも言ってくださいね」
リリアさんが軽く胸を張る。
異世界に放り出されて真っ暗になった道が、ぱああ……っと照らし出されたような気がした。
――警察官。
あたしの夢は、まだ終わっていない。
ここから、また始められるんだ――!
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