第3話 作戦変更!

 リーシャの闇堕ちもとい破滅を阻止するには、私への依存の脱却が急務だった。

 で、じゃあどうするか……という話だが。


 私が心を鬼にして距離を置く。


 一番手っ取り早く、今すぐ実践できることだったが、私の心はマシュマロよりも甘くて柔らかい。

 昨日の今日でそれは無理だと悟った。


 またあの無垢な瞳を向けられたら簡単に折れてしまう。

 きっといくら決意しようとも同じように折れて、何度も何度も同じことを繰り返す。

 そんな虚空な未来が容易に想像できてしまった。


 とはいえ、残念。仕方ないね、破滅を迎えよう……! とはならない。


 リーシャが破滅を迎えるということは、私の人生もそこで終わりということ。

 それはどうにか回避しなければならない。


 ならば別の方向からアクションを仕掛ける必要があった。


 今、求められていることは『私への依存度を弱めること』だ。

 それは私との距離を置くだけが正解ではない。


 例えば、私以外の依存先を見つけるとか。


 破滅を迎える根本的な原因は、リーシャの依存先が無くなってしまうところにあるはずだ。

 ということはだ、逆説的に考えるのなら私以外の依存先が存在していればそこで焦燥に駆られ、破滅を迎えるようなことはないだろう。


 「そうだ、リーシャにお友達を作ろう!」


 ポンっと手を叩く。

 我ながらとても素晴らしい妙案だと思った。自画自賛、大絶賛。


 今、リーシャは同年代の子と同等な立場として関わることはあまりない。

 メレシー家という家柄、過ごす環境、リーシャの性格。

 色々な要因が絡み合った結果だ。


 そういうわけで、リーシャには友達が少ない。もっとも私もリーシャと似たり寄ったりなのだが。


 とりあえず、友達を作ろう。

 そして依存度を半分こ。


 「ふふ、ふふふ……」


 不敵な笑みを浮かべる。

 どうしよう。本当にどうしよう。

 成功する未来しか見えない。


 私はもしかしたら相当な天才なのかも。


◆◇◆◇◆◇


 「というわけで、お父様!」


 マルシア家のお屋敷。

 お仕事から帰ってきたお父様に私は突撃した。

 スーツのジャケットを脱いで、侍女へ手渡す隙を見て、どーんっと抱きつく。

 みぞおち辺りにぐりぐりと額を擦りつけた。


 世のお父さんは大抵娘のこういうのに弱い。


 見た目は五歳児、頭脳は大人。

 このハンデを精一杯使わない理由はない。


 「ラフィー、今日は一段と甘えてくるなー、よーしよし」


 髪の毛をぐちゃぐちゃにするように頭を撫でてくる。

 犬か猫のような扱いな気もするが、深く考えるのはやめておこう。


 どうにせよ、お父様の懐に入り込むという第一関門は突破した。


 「お願いがあるんです」

 「なんだ? どこか行きたいところでもあるか? それとも別荘が欲しいか? パーティにでも興味が湧いたか?」

 「違います」


 きっぱりと否定する。

 正直どれもこれもどうだっていい。


 「それじゃあどうした」

 「お父様、私……お友達が欲しいです!」

 「お、お友達……?」

 「はい、お友達です!」


 お父様から離れて、脇腹に両手を置き、むふんとドヤ顔。

 そして呆れたように顔を顰める。


 「わかった。考えておこう」


 とりあえず承諾を得ることができた。

 渋い顔をしている、お父様であったが、これ以上なにか特段言うことはない。私のお父様もとても甘い。


◆◇◆◇◆◇


 それから数日後のことだった。


 「ラフィー」


 私はお父様の執務室へと呼ばれていた。

 夜も深い時間。ということもあって、かなり眠たい。前世ではそこそこ夜更かしをするようなタイプであったが、この身体だといくら慣れていようが限界はあっという間に訪れる。

 五歳児に夜更かしは早すぎる。


 「お父様、どうされましたか?」

 「この間言っていたことがあったろう?」

 「お友達ですか」

 「ああ、そうだ。ラフィーと合う人材はいるかと考え、相手探しはかなり難航していた」


 肘をつくお父様はそう語り始める。すぐに紹介してくれなかったのにはそういう理由があったのか。

 別にそこまで大したことじゃないと思うのだが。婚約者を選ぶわけじゃあるまいし。


 マシュマロよりも……いやチョコレートよりも甘いお父様。なんでも言うことを聞いてくれて都合がいいと思っていたが、ここまで過保護だと一長一短だなと考え直す。


 「が、だ」


 お父様の話は終わっていなかった。

 てっきり『だからもう少し待て』と言われるものだとばかり思っていたし、覚悟もしていた。

 言葉が続くことに驚く。

 話の続きを待つ。お父様をじーっと見つめている。


 「ラフィーにぜひ紹介したい人物を見つけた」

 「おお、そうなのですか」

 「ああ」

 「どのような方なのですか?」

 「ラフィーと同い年の女の子だ。五歳ながら聡明で、性格もいい、あれは間違いなく将来大物になるぞ」


 べた褒めであった。

 さぞかし優秀な人物なのだろう。


 だがそんな人物『エデン』に登場していただろうか。

 まああれはゲーム。一つの場面しか切り取っていないから、知らない人物が出てきたってなんら不思議はないはずだが。


 そこまで優秀な人物であれば、少しくらい出てきてもおかしくない。


 うーむ、誰だろうか。容姿も名前もわからない状況じゃ、まともに推察もできるはずないか。


 「身分が平民という点が気になるところではあるが、もう数年もすれば身分格差の是正も行われて、気にする人も大きく減るだろう。些細なことだな」

 「お父様」

 「なんだ」

 「その方ってとても小柄で、肌白で、茶髪の素朴そうな少女だったりしませんか」

 「その通りだ。なんで当てられるんだ? ラフィー」

 「あ、いえ、なんとなくです」


 嫌な予感がぷんぷん漂う。

 いやいやそんなわけないな、と嫌な思考を取っ払う。


 「え、えっと、お父様。その方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 「シュカ・シャルファ……と言ったな、たしか」


 お父様の口から出てきたその名前には心当たりしかなかった。

 『エデン』のヒロインだ。

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2025年12月9日 20:08

幼馴染である悪役令嬢は破滅まっしぐら!!! 皇冃皐月 @SirokawaYasen

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