かいゆう
☒☒☒
第1話
中学生の頃、誘拐されかけたことがあった。
塾の時間まで少し時間があって、駅前をふらふらと歩いていたとき、一人のおじいさんに話しかけられたのだ。
おじいさんは車いすに乗っていた。
何か困っているんじゃないかと思って、私は声をかけられたので、学校のボランティア関係の講習でならったように、相手の話をしっかり聞けるように少し膝を曲げておじいさんと視線の高さを合わせて話を聞いた。
どうやら、おじいさんは車いすで行きたい場所があるので押してほしいということだった。
話に聞くと駅の反対側だ。
エレベーターの場所は分かりにくいし、車いすの人は何かと不便だ。
たとえ、私たちが普段便利だと思っている空間であっても、車いすの人にとっては不便だったり不安なことがあると、学校の授業で習っていたので私は駅の反対側くらいならと車いすを押してあげることにした。
駅の反対側ならほんの数分だし。
その数分の間におじいさんと色んな話をした。
おじいさんは旅をしていて、こうやって色んな人の手を借りている。
色んなひとが親切に手を貸してくれていてとても助かっている。
私は内心、いつかボランティア関係の作文を書くことになったらネタができたなと心のなかでほくそ笑んでいた。
たった数分間の親切で、おじいさんとの心温まるエピソードの出来上がり。
入試の作文やら、夏休みの宿題やら活用のシーンはいくらでもありそうだ。
だけれど、人生そんなうまいはなしはなかった。
おじいさんは駅の反対側につくと、今度は別なところに行きたいと言い始めた。
郵便局に行きたいとか。
それもまあ、遠くないので車いすを押す。
しかし、学校とかの体験で車いすを押すのとはちがって、おじいさんは重いし、段差では腕に衝撃がくる。
だんだん腕がだるくなっていく。
そして、目的地につくと、次の目的地をいいだす。
近いけれど坂になっていたり、なかなか疲れる。
途中でおじいさんは、なぜだか串焼きを買ってくれた。
食べるように勧められたけれど、なんとなく気がすすまない。
だけれど、おじいさんに強引に食べさせられた。
それからしばらく、おじいさんの車いすを押して歩き続ける。
すると、一件の家が見えた。
その家に向かうように言われて、私は「最後だから」と約束をして、おじいさんを連れて行った。
古い一軒家だった。
そして、その家の玄関の前までおじいさんを連れていくと、おじいさんはポケットからじゃらりと音をたてて鍵を取り出した。
鍵穴に鍵を差し込もうとしている。
私は慌てて、「塾の時間なので」といって逃げた。
かいゆう ☒☒☒ @kakuyomu7
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