第2話 ステータス発生

「吉岡中学出身、夏目孝太郎です。志望校は帝大理IIIで、それ以外は負け組だと思ってます。勉強以外に時間を使う気はありませんので、仲良しごっこは結構です」


――言った。やった。やばい、やりすぎた。

陰口にイラついていたとはいえ、なかなかの暴言である。


教室の空気が一瞬で真空パックになったその時だった。


視界の端に、半透明のステータス画面が浮かび上がった。


――――――――――――――――――

「特殊ミッション達成:高校に入学する」

ステータス、振り分けポイント50獲得


夏目孝太郎 15歳


球速 80km

コントロール G

スタミナ G

変化球 -


弾道 1

ミート G

パワー G

走力 G

肩力 G

守備力 G

捕球 G


振り分けポイント:50

称号『ガリ勉ノッポ』

――――――――――――――――――


「…………は?」


名前と一緒に、妙に見た事のありそうな野球ゲーム風の能力値が並んでいる。

球速80km……小学生?

オールG……逆に才能。


じっと眺めているとステータスはふっと消えた。


(いやいやいや、今の何だよ)


「あっ、えっと夏目くん? もう座っていいよ。それでは次の人ー」


自己紹介中だったことを思い出し、慌てて着席した。


問題集を開くが、さっきの画面が頭から離れない。

――これが、夏目の人生を変えることになるとも知らずに。



その数日後。

夏目の高校生活が始まった。もちろん、クラスでは浮きまくっている。

あの自己紹介で友達ができるほど世の中甘くない。


さらに追い打ちをかけるように、この学校には「全生徒、必ず部活か同好会に所属」という謎ルールがあった。


スポーツ部は勧誘が激しすぎて論外。

文化部は夏目の悪評(ほぼ都市伝説)が広まりすぎて、ほとんど門前払い。


「話しかけたら殴られたらしい」

「常に見下してくる」


夏目の知らない夏目が増殖している。


そんなある日の放課後。

帰ろうとした夏目の前に、派手なタオルをかけた男が飛び出してきた。


「よおおお!夏目ぇ!!」


元気よく話しかけてきたのは、中村秀人。

クラスは違うが、入学初日からやたら目立っていた男だ。


「……誰だ」


「同じ一年の中村!覚えなくていい!!」


「覚える気なかったから助かる」


「素で言うな!!」


中村は勢いよく夏目の前に立ちふさがると、深呼吸した。


「単刀直入に言う!

俺、野球同好会つくるからさ。お前、入ってくれねぇ?」


「やだ」


「即答!?」


夏目は荷物を持ち直す。


「悪いけど、放課後は勉強で忙しいんだよ」


「もう勉強してんの!?」


「……当たり前だ」


中村は一瞬だけ黙り、次の瞬間キラキラし始めた。


「じゃあさ!!名義だけ!!名前貸してくれ!!!」


「は?」


「ちゃんと活動してる同好会として申請するには人数が必要なんだよ!!

実際に来なくていい!!練習参加ゼロでいい!!

幽霊部員どころか“存在だけ”でいい!!」


「存在の扱いひどくね?」


「頼む!!マジで!!

もう、ぜっんっぜん人集まんなくってさ、せめて同好会だけでも作りたいんだよ!

そんで、同好会作る為にも“ちゃんとしたやつ”が欲しいんだよ!!」


「ちゃんとしたやつ……?」


「成績トップって聞いた。

そういう“真面目にやるやつ”の名前があるだけで、先生の見る目が変わる!」


(……めちゃくちゃ打算的だな)


だが、悪い話ではない。

どのみちどこかに所属しなきゃならないなら、幽霊枠のほうが楽だ。


「……顔合わせとか行かなくていいなら、勝手に名前使っていいぞ」


「マジかあああああ!!?夏目ぇぇぇ!!愛してる!!」


「やめろ声がデカい」


中村はその場でガッツポーズを連発しながら、全力疾走で職員室の方へ走っていった。


「書類出してくるぅぅぅ!!」


「やかましいやつだな……」


夏目は首を振って昇降口へ向かった。


(まあ、名義だけなら問題ないだろ)

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