第13話 歴史の破壊者
とある国の山を奥深くに進んだ場所にその店は立っていた。それは誰が見てもありきたりな雑貨屋だが、特定の魔力を持った者が扉を開けば、その先には限りなく広く暗い空間が広がっていた。空間魔法を定着させた隠れ家というわけだ。男はその空間、架空空間に、二年ぶりに帰ってきた。
「おぉ!久方ぶりのご帰還じゃないか!部屋のメンテナンスでもしに来たのたか?No.8!」
「………B型の……あぁ…何番だっけか?」
「
「この空間は王の作られたものだ。俺の力でどうこうできるわけがないだろうよ。……それより番外はいるか?まだ王は帰られてないのだろう?」
「あぁ……ベータはいつもの部屋にいたはずだ。王もしばらく会ってないな。俺としては一刻も早くあのご尊顔を拝みたいのに。」
「あの方にも準備があるんだ。近いうちにまた会える。」
この空間には何百人と住んでいた。さらに出張っている者達も合わせれば、最大で二千人は超えることになる。そんな者達が何不自由なく過ごせるほどには快適な空間となっていた。
「ベータ!いるか!?」
No.8は大きな扉を叩き、中の男に声をかけた。男はただ“ええ”とだけ答え、No.8はゆっくりと扉を開いた。
「あっしに何の用だ?アンタは普段、こっちには帰らんでしょう。」
「王の耳に入れていただきたいことがあるんでな。俺が失敗作を2,500体ほど連れていっただろう?あれらが全て殺されてしまってな。申し訳ねぇ。」
「………確か
「………法帝どもが来ねぇか警戒してたんだが、想定外のヤツが来てやられちまったんだ。」
「………まぁ所詮は失敗作。その程度の失態でアンタを殺すわけにはいかんでしょう。王もお許しになるはずだ。」
No.8は額に汗を流しながらベータの言葉を聞いていた。気分次第で殺されてしまう、そのような緊張感がこの部屋には漂っていた。
「それと、獄境でグランデュース=ミルアルトとその守護者、ネフィル=セルセリアと遭遇した。失敗作を殺したのはミルアルトの方だ。」
「………殺しちゃいねぇでしょうな?」
「最初は気づかず殺すところだったが、逃がしたんで生きてるはずだ。」
「それなら構わねぇ。あの者達は準備が整うまで殺すなとの命令だ。それにミルアルトもセルセリアも、殺す役目は王のもんだ。あっしらが手を出していい相手じゃござんせん。だが王には伝えておきやしょう。それが
話を終えたNo.8は部屋を出た。そしてそのまま店を出て、空間転移でどこかに消えていった。
***********************
目を覚ますと、薄暗い天井と、すぐ隣にはセリアがいた。目を覚まして眩しいと思わなかったのは、これが初めてかもしれない。……そういえばここは獄境だったな。光が少ないのだから眩しくないのは当たり前か。
「うッ……はぁ……。」
身体を起こそうかと思ったが、身体中に激痛が走って思う通りに動かせなかった。そしてそれと同時に、左腕に言葉にし難い違和感を覚えた。
「!!起きたのね!……良かったぁ………。ユリハを読んでくるから、静かに待っててね!」
目を覚ましたオレに気づいたセリアが、安堵と興奮の入り混じった声でそう言った。ドタドタと部屋の外へ走っていくのを、オレは後ろからただ眺めた。声を出すのもなかなかにしんどい。喉や肺も損傷しているようだ。
「ミルアルト君、意識はしっかりありますか?」
「あ……はい……。」
部屋に来たユリハ様の質問に、声をガラガラにしながらなんとか答えた。ユリハ様はその様子を見て、オレの喉に治癒魔法をかけてくれた。
「ありがとうございます。」
「いえ。ミルアルト君がどれくらい覚えているかは分かりませんが……まず君が洞窟に行ってから二週間が経ちました。君は洞窟でNo.8という者から襲撃を受け、大怪我を負ったようです。私が回帰魔法で傷を治して命は取り留めましたが、回帰魔法で巻き戻せる時間は限られているので
「…………腕ありますけど。」
オレは失ったはずの左腕を上げて見せた。No.8とかいう男にちぎられた覚えはあるが、確かに今、オレの左腕はある。
「それは私の創生魔法で作った腕なので、違和感はあるでしょう?馴染めば普通の腕と変わらないでしょうけど、少し時間がかかります。それでもかつてほどの腕力は戻らないでしょうが。それと作った腕とは言っても痛覚はあるので気をつけてくださいね。神経を通わせるためには必要でして。」
「そんな、感謝しかありませんよ。片腕がないと剣を振りづらくなりますから。……それより……なんか凄い魔法を使われたんで?」
「おじ様が教えてくれたんですよ。魔力消費が酷くて他の人には使えないでしょうけど…… 私は魔力切れを起こしませんから。」
おじ様……っていうとネフィル=エスト様のことか?………なんでそんな魔法を教えられるんだよ。
「………二週間?ってことはもう帰らねぇと。」
「無理しちゃダメよ、ミラ。レイジさんには私から連絡しておいたから、心配しないで、今は回復に専念しなさい。」
「そっか。分かった。」
「それと、君を治してから私が大洞窟に行ってみたけれど、特になにも残されてませんでした。No.8を追うことはできません。」
そうか……。まぁ今追ったところでオレはアイツには敵わない。もっと力をつけないと……。もっと……もっと……。
「あら、寝ちゃった。」
「……仕方ありませんよ。疲れてるでしょうし、まだ15なんでしょう?それなのにこんな目に遭って………本当に申し訳ありません……。私がお姉様達を大洞窟に案内したばかりに………。」
「ユリハは悪くないわ。魔物と戦うなら命懸けということくらいミラも理解しているし……その上で守れなかった私の責任よ。」
「………No.8というのはお姉様よりも強かったのですか?シャルが今まで遭遇した
「不意を突かれた感じだから何とも言い難いけど……まともに戦えば私の方が強いけど、油断はできない相手ってところかな。たぶん十法帝と比較しても遜色ないくらいかな。」
「………なら幹部級ということですかね?もしそうなら逃げられたのは痛いですね。」
「どうだろ……まだ
「……というと?」
「ミラは五星級になってる……!たぶん
「そうですか!それは素晴らしいですね!!」
それからオレが再び目を覚ましたのは数時間後のことであった。流石に腹が空き、数日分の食料を一気に平らげた。異様に食欲が湧いていたのは体力を回復させるためなのか、はたまたオレが成長したからなのか。セリアから指摘されて気がついたがオレはどうやら五星級になっていたらしい。色々あって気づけなかったが、確かに魔力が全身から溢れていた。死ぬところだったが結果として生きていたし、正直不可能だと思った昇級もこの短期間で成し遂げることができた。案外悪いことばかりではなかったのかもしれない。
「………何日くらい安静にしてたら治るかな?」
「普通は“日”じゃ治らないわよ。まぁ二日もすれば動けるようになるんじゃない?腕が馴染むのは一ヶ月くらいって言ってたけど。」
「それまでは身体動かさない方がいいかな?」
「そりゃね。もし何かあったら動かなくなっちゃうかもよ?そのときは私が斬って、もう一回作ってもらえるようにユリハに頼むけど。」
「……………ちゃんと安静にしとくよ。」
「そうしときなさい。」
セリアに説得され、オレはその日と次の日は寝たきりの状態だった。食事だけはなんとか摂り、暇なときは魔力を練っていた。五星級になり量は当然のことながら、質や密度が大きく向上しているのを実感した。それに加えて属性効果もより大きくなっているようで、指先に魔力を集中するだけで極めて至近距離の周りの空間が歪んでいた。魔素を分解しているせいだろう。
そして二日後、やっとの思いでオレはベッドから降りた。身体はまだ痛むけれど、動けないほどではなかった。それでもまだ素早く動くことはできないし、左腕にはほとんど力が入らない。オレは弱々しい足取りでユリハ様に挨拶に向かった。
「まぁ!お久しぶりですね!こちらへは何のご用で?」
「いえ、たまたま近くに来ていたら
ユリハ様の部屋まで来ると、中から誰かと話している声が聞こえた。若い男の声だったが、ユリハ様の話す雰囲気からして魔族ではなさそうだ。気にはなりながらも、とりあえず扉をノックして部屋に入った。
「ユリハ様、お世話になりました。それと………!!」
「君が
アーサー=ベルドット、その名を知らない者はいない。今の世において“人類最強”の名を冠する男だ。五年前、突如としてその頭角を表し、八星級に至ってからわずか一週間で九星級と認められた。それまでは一切名を聞かなかったためしばらくは世間も認めていなかったが、今ではその実力を疑う者はいない。校長やシャルテリアさんと比べてもさらに別格の存在だ。
「……初めまして、グランデュース=ミルアルトと言います。オレはすぐやられてしまったんであまり覚えてたせんが………。」
「グランデュース……神話の血族か。なかなか良い魔力を持っているようだけど、太刀打ちできなかったのかい?」
「直前まで大量の魔物と戦っていて………そうでなくとも負けてたでしょうけど。意識を失った後はオレの守護者とユリハ様が助けてくれたらしく……。近いうちに知るでしょうからこの際言ってしまいますが、オレの守護者というのがネフィル=セルセリアなんです。彼女がいなければ死んでいたでしょう。」
「ほう………なるほど、近々行われる十法帝会議はそれについてということか。運が良いのか悪いのか、災難だったね。何にしても若い命が摘まれなくて良かった。」
今度行われる十法帝会議には校長やシャルテリアさんから誘われている。神話の時代の英雄が現れたことを詳しく伝えなければならないからだ。今はまだそれらは知られていないようだが、セリアのことを聞いただけでそれを理解できたのか。
「私はそろそろ帰るとしよう。立ち寄っただけなのでね。ユリハ様も、お邪魔しました。」
「ええ、お気をつけて。」
「あのッ……!!」
「……?」
帰ろうとするベルドットさんに、オレは自ら声をかけた。多少の躊躇いはあったけれど、逃げたくもなかった。
「オレはアンタと同じ九星級を目指します!九星級は一人まで……。まだまだアンタには敵わないけど、ずっと強くなってアンタを超えてみせる!!」
「ふっふっ……。威勢が良いじゃないか。死に目に遭ってまだ高みを目指すとは………。いいだろう。」
「ッ!!」
ベルドットさんは言い終わると、いつの間にか槍を持っていた。そしてオレはそれに反応することができず、気がつけば喉元に刃が置かれていた。全く見えなかった。本気ではないだろうに、魔力の動きさえも捉えることができなかった。オレとは次元が一つも二つも違っているんだ。
「私の一撃を……対応できずとも構わない。見切れるようになれば、私の師を紹介してあげよう。」
「師匠?」
「私をここまで鍛え上げてくださった方だよ。あの方のことは私も詳しく知ってるわけではないが、恐らく誰よりも強いお方だ。法帝の誰よりも、そして当然私より………恐らくユリハ様よりもね。」
「それはまた……すごいですね。」
「………またな。」
どこまで本気で言っているのかは分からないが、九星級の師匠ともなると確かに規格外の強さを持っていることだろう。八星級に匹敵する力を持っていてもおかしくはない。むしろそっちの方が納得がいく。
ベルドットさんは何か用があったわけでもなく、本当にただ立ち寄っただけらしい。オレとの会話を終えると、すぐにどこかへ行ってしまった。
HAMA/運命の逆賊 わらびもち @warabimochi_16
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