3.ちからこそぱわー!

 子供は覚えが良い、とはよく言うが、ここまで来れば才能である。

 知っているか知らないかというのは大きな違いだ。特にイワヒバは知らないことが多すぎる。通常、人間は自前の知識や経験から未知への対応をするが、イワヒバにはそのどちらもほぼ無い。

 コメントのアドバイスで、既に何件も上がってる攻略動画やVRでの基本動作などを軽く教わって、いざ再選。


 先程までのぎこちない動きはもうなかった。


「はっ……!!」


 病人とは思えぬ力強い動き。

 結局のところ、素早く、アクロバティックな動きはまだできない。反射神経自体はむしろ良い方だが、そもそもの動きがどうしてもまだ遅い。

 それ故に選んだプレイスタイル、それは──


【パリィ!?】

【いや強引に弾いたぞ!】

【うおおおおお!】


 力こそパワー!!!

 パリィという、タイミングよく剣や盾で受け流して弾くというテクニックもある。だがイワヒバが選んだのはもっと強引なプレイスタイル。そう、攻撃に攻撃を合わせる。当然、強い方が勝つ!


 巨人に向かって走り出す。

 どこかの人力TASは攻撃の反動を利用して無理やり巨人の上をとっていたが、まずは足を攻撃して『ダウン』させるのが定石だ。


 ダンッ…!!


 強く踏み込む。ゆっくり丁寧に構える。

 そして振り下ろす!


 斬ッ!


 一撃。一撃で巨人が膝を付く。

 これは余談であり、そして|有り得ない・・・・・・だが、このイワヒバの攻撃はチュートリアルボス相手への一撃のダメージが、全プレイヤー中トップだったそうだ。


「かいてん、ぎりっ!」


 追い討ちに武器にセットされた『アーツ』を放つ。

 技名を叫ぶことで、体が技の通りに自動的に動いたり、威力や属性の補正が乗る。

『回転斬り』はその名の通り、体を一回転させて剣で切る技だ。


 ダンダンッ!


 と、両の足に一撃ずつヒットし、巨人がさらに倒れる。

 地に着いた巨人の頭に一撃。これまでの強靭な肉体とは違い、紙を切るような感触ののち、頭の包帯が消える。代わりに、首に刺さる剣が見える。


「んしょ……えいっ……!」


 首に刺さった剣を抜けば、血飛沫のような青いポリゴンとともに、一気にHPが0になる。

 巨人は光となり、次へと進む重たい扉がようやく開く。


「……ふう」

【うおおおおおおおおおおお!!】

【きたあああああ!!!】

【いやめっちゃ上手かった!!】

【うおおおおおおかわいいいいいい!!】


 落ち着いた反応……というより、テンションの上げ方を知らないイワヒバとは対照的に、コメント欄の流れが速くなる。いつの間にか視聴者数は1万人に。SNSでも話題になり、今日の『カラケイ』に関する話題は彼女に関することで持ちきりであった。


「……?『モシュネー』?」


 さて、そんな騒ぎはつゆほども知らぬイワヒバは、目の前の現れた表示を読む。巨人の首に刺さっていた剣……いや、今は形を変え球体となり、イワヒバの周りを飛び回る。


 ■■■■■

『モシュネー』

「記憶」と「再現」をする、精霊の一種。

 メニュー画面であり、武器であり、貴方自身の魂である。

 ■■■■■


「……???ふぅん…?なるほどね……」


 わかってなさそうすぎるので、コメント欄がまたざわざわし始める。

 イワヒバもよく分からなかったら取り敢えずコメント欄を見るという仕草を覚えたので、何か参考になるコメントはないか探す。


「え、ちょっと……速い……いや、てか、人多い……!?ええと……ふんふん、メニューから変えれる…?んと……あー、これかぁ。おおー!」


 目の前を浮遊するモシュネーをまずはタップする。

 すると、モシュネーは形を変え、薄い板状となりメニュー画面へ変貌する。

 自分の姿と、ステータス、装備している武器や防具が表示される画面へと。

 まずはチュートリアルとして、ステータス画面へ誘導される。


 ■■■■■■■

『スターオーブシステム』

 ボスを倒すなどで手に入る「スターオーブ」をこのスロットに入れることで、能力が上がります。

 1つのステータスに最大星5まで、合計10個まで入れることが出来ます。いつでも自由に取り外し出来るので、戦略にあったステータスにしましょう!

 ■■■■■■■


「ふんふん……なるほど……。

 ええとじゃあ、「筋力」ってとこにコレをいれれば、ぱわーあっぷ……?ちからが、つよくなる?」


【そうそう】

【それを上げると、敵へのダメージがあがるよ】

【かしこい】


 全肯定リスナーに囲まれ、チュートリアルがサクサク進む。武器を選ぶフェーズに入った。


 カラケイに所謂「武器種別」はないが、特殊なものを除いた、一通りの武器種が初期装備として選べる。

 片手剣、槍、拳、槌、そしてイワヒバが注目したのは……


「んお……でっかい……!!」


 大剣だ。

 大剣。カテゴリとしては両手剣だろうか。読んで字のごとく大きい剣。現実でのクレイモアなどより倍は大きく、それ故にアクションも鈍重ながら派手、威力も高く、特に初心者には人気が高い。


 ブンブンと振り回してみる。ずっしりとした重さを感じるが、しかし誰でも簡単に振り回せるような重さだ。振り回し方も何故か様になっている。

 なにより、小さい女の子が大きい武器を振り回すのは素晴らしいことだ。これにはコメント欄も大いに盛り上がった。


「よし……それじゃ……」


【ようやく進めるな】

【長かった】

【風呂食ってきた】

【チュートリアル長かったなー】


「……おわるね」

『配信が終了しました』


【ええええ!】

【えぇ】

【まぁもう疲れたよな】

【おやすみ】

【もうこんな時間か】

【俺らも寝るか】

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