追放された姫を俺の家で保護したら、めっちゃ懐かれてしまったみたいです

@beru1898

第一話 姫様の亡命先は?

「あ、あの……お願いします! 私をここにしばらく置いてくださいっ!」


 少女は深々と頭を下げてそう頼み込み、俺もしばらく呆気にとられる。


 何でこんな事に……しかも、相手は何処にあるかも知らない国のお姫様だって?



「いただきます」


 俺、佐藤幸一は夜中になり、台所で一人でいつものように夕飯を摂る。


 今日の夕飯はコンビニ弁当とペットボトルの緑茶。親は中央アジアのどっかの国だかで、天然ガスの開発プロジェクトだかの仕事で海外赴任をしており、この首都圏郊外の一戸建てで高校生ながら一人暮らしをしていた。


 一人暮らしなんて気楽でいいなと最初は思ったんだが、家事も炊事も全部やらないといけないので、色々と大変だが、それ以上に一人で生活ってのが精神的にちょっとキツイ物があった。


『次のニュースです。昨日未明、中央アジアのナグフスタン王国で、軍事クーデターが発生し、軍が王宮や国会議事堂を占拠しました。軍のスポークスマンは会見で国の全権を掌握し、直ちに暫定政権を……』


 何気なく付けているテレビのニュースで、聞いたこともない国でクーデターだかが起きたってニュースが流れたが、全く関心もなかったので、特に気にすることもなくコンビニ弁当を食べていく。


 自炊も試みたが、結局、上手くできなかったので、コンビニ弁当やインスタント、冷凍食品が中心になってしまい、味気ない食事ばかりだ。



「ご馳走様」


 いつも通り夕食を終えて、後片付けを始める。


 さて風呂でも入るかなと思っていると、スマホの着信音が鳴り、


「親父からか? 何だろう?」


『まずいことになった。しばらく帰れそうにない』


「え? 何だこれ?」


 親父からそんなメッセージが来たので、どういう事だと返信するが、


『数日以内にもしかしたら、家に来客が来るかもしれない。その時は頼んだぞ』


「来客って誰だよ……って、大丈夫なのか?」


 と返信したが、それ以降、既読が付いたのみで交信が途絶えてしまった。




「何かあったのか?」


 今のやり取りだけではさっぱりだが、取り敢えず生きてるなら、大丈夫だろう。


 万が一の事態があれば連絡が来るだろうと言い聞かせて、そのままスルーしてしまったのであった。



 翌日――


「おお、相変わらず凄い人」


 今日は土曜日で休みだったので、電車でちょっと遠出をして、秋葉原まで遊びに行く。


 本当は友達と行く予定だったんだけど、急用が出来ていけなくなってしまい、家に居ても暇なので一人で行くことにしたのだ。


 それにしても人が多いな……何と言っても外国人が多い。


 今更、気にもしないのでどうって事はないが、みんなどこの店に行くんだか。


「取り敢えず、この店にでも入るか」


 ちょうど某人気アイドルソシャゲとコラボしている駅近くのデパートに行き、中をぐるっと見て回ることにした。


 こういう所を見ているだけでも楽しいなあ……。



「はあ、はあ……」


「ん? うわあっ!」


「きゃっ! そ、ソーリー……」


 店の中に入ろうとしたところで、いきなり走ってきた大きなキャリーケースを抱え、帽子を深くかぶり、マスクをしていた女性とぶつかってしまった。


「いたた……って、大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございまーす……」


 彼女の手を掴んで抱き起すと、少し訛りのある日本語だったので、もしかして外国人か?


「メーリル様。こちらへ」


「う、うん」


 駆け寄ってきた彼女の知り合いらしい、コートを着た女性に起こされ、彼女と共に走っていく。


 何だろう? 追われているみたいだったが……まあ、俺には関係ないか。



 そう思い、店内に入っていくが、


「くそ、こっちに逃げたはず……ちょっと、そこの人」


「はい?」


 店に入ろうとしたら、今度は二人のスーツを着た男に声をかけられるが、今度は何だよ……。


「この二人を見なかったか?」


「え?」


 サングラスをかけたガタイの良い男が胸ポケットから、二枚の写真を取り出す。


 二枚とも若くて綺麗な女性が写っていたが、もう一枚の写真に写っていた女性には見覚えがあった。




(さっきぶつかった人?)


 どっちだったか忘れたが、確か一人はこんな顔をしていた気がする。


 凛とした表情をした二十代前半くらいの美人で、日本人にしては彫りが深いので外国人っぽい感じだが……。


「いえ、見てません」


「そうか。ちっ、じゃあこっちに行くぞ」


 何だか嫌な予感がしたので、しらばっくれておくことにすると、男たちはあの二人が行ったのとは違う方向へと走っていった。


 いかにも怪しい男たちだったし、余計な事に巻き込まれたくはなかったので、しらばっくれちゃったけど、これで良かったんだよな。


 そう言い聞かせて、店内に入っていき、秋葉原で休日を過ごすことにしていったのであった。




「結局、大したものを買わずに帰ってきちゃったな」


 秋葉原を見て回ったは良いものの、特に変わったものもなく、グッズを少し買ったくらいで終わってしまい、電車を乗り継いで、自宅近くの最寄り駅に到着した。


 やっぱり一人だとつまらないなーって思いながら、電車を降りていき、駅を出て、自転車の停めてある駐輪場へ向かうと、


「ここまで来れば安心のはずです」


「本当にそうかな……奴らが追ってきたら……」


「大丈夫ですよ。それよりも、住所を調べないと……」


 駐輪場の近くで、二人の女性がコソコソと話しているのが見えたが、もしかしてこの二人は……。




(さっきアキバで会った二人?)


 間違いない。


 何でこんな所に? あの二人から逃げてきてここまで来たのかな?


 嫌な予感がするなって思いながら、駐輪場に行って自分の自転車に乗り、帰宅しようとしたが、やっぱり気になったので、


「あのー」


「――! あ、あなたは!?」


「何かお困りですか?」


 恐る恐る声をかけると、女性達も俺に気づき、ビックリした様な顔をして後ずさる。




「さっき、秋葉原で会いましたよね?」


「くっ! 貴様、やっぱり奴らの追っ手か!」


「は? いや、追っ手って言われても……俺、家がこの近くなだけで! すみません、おせっかいでしたね! それでは!」


「ま、待ってください!」


「はい?」


 妙な勘違いをされてしまったみたいなので、すぐに逃げ出そうとすると、帽子を被っている女性に引き留められる。


「あの……こ、この近くに佐藤さんというお宅はありませんか?」


「佐藤? いやー、そうは言いましても、佐藤さんっていっぱい居るので」


 一応、俺の苗字も佐藤なんだけど、日本で一番多い有り触れた苗字なので、まさか俺の事ではないだろうと思い、そう答える。




「そうですか……大事な用事があるのですが」


「下の名前わかります?」


「あー、えっと……ちょっと待ってください。サトウ……シンタローさんです」


「えっ?」


 佐藤慎太郎……俺の親父の名前と同じなんだけど。


(嘘だよな?)


 佐藤だけじゃ俺には関係ない可能性大だったけど、流石に下の名前まで一致しているとなると、偶然とは思えない。


「ご存知ないですか?」


「そのー……どういったご関係で?」


「ビジネスでの知り合いというか……この佐藤慎太郎さんの家に行ってくれと言われたので。お願いします、一緒に探してくれませんか? ちょっと急いでいたので、町の名前までしかわからなかったんです!」


 町の名前までしかわからなかったって事は詳しい住所は知らないって事?



「わかりました。ちょっと心当たりがあるので、案内しますね」


「本当ですか? ありがとうございます。親切な方で良かったですね」


「その話、本当なんでしょうね? 嘘だったら、ただじゃおかないですよ」


「嘘じゃないですよ……」


 むしろ俺の親父の事じゃないことを祈りつつ、二人を自宅に案内する事にした。


 思えばこれがすべての始まりだったのかもしれない。

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