ギャップ・バーン

小狸

掌編

 乱暴で粗雑な人間が時折見せる、人情や優しさにときめく。


 不良の言動のうち、たった一つの良いことを賞賛する。


 散々人に迷惑を掛けた莫迦ばかが、過去を反省して同じように人に迷惑を掛けている奴を注意する。


 ――とか。


 そういうギャップ萌えみたいな概念そのものを、私は嫌悪する。


 萌えてんじゃねぇよ、と思う。


 乱暴で粗雑な人間は、性根も乱暴で粗雑だし。


 不良の言動は、たった一つ以外は全て不良よからずであり。


 散々人に迷惑を掛けた莫迦には、いくら過去を顧みても人を注意する権利はない。


 私はそう思っている。

 

 ギャップじゃなく、正面からその人を見据えれば良いのにと思う。


 しかし絶賛萌えている彼ら彼女らは、そうしない。


 勇気がないのだ。


 その人の、


 まったく。


 そんなことを言っているから、DV彼氏彼女とかがもてはやされるのだ。


 最近浸透している「弱者男性」という言葉、またこれは男女関係ないが「陰キャ」という言葉で、特定の人々を侮蔑する有様ありさまには、疑問を呈さざるを得ない。


 だって、私たちに精神的肉体的暴力を実行し、集団でつるんで容姿や容貌を勝手に評価し、けなし、さげすみ、嘲笑にしてくるのは、いつだって「強者」の側だし、いつだって「陽キャ」の側だからだ。


 本当の加害者は「強者」であり、「陽キャ」であり、「持っている側」なのだ。

 

 ならばなぜ、そういう奴らが侮蔑の対象にならないのかといえば、からである。


 強い者、しかも群れている連中に、逆らおうとする人間は、まずいない。


 反発され、反論され、反撃されるのが、怖い。


 そう考えるのは、当たり前だろう。


 まあその結果として、弱肉強食泣き寝入りの世ができあがっているのだが。


 だからせめて、気を付けてほしい。


 彼ら彼女らのかたりに――飲まれぬように。




(「ギャップ・バーン」――了)

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