西国分寺経由
白川津 中々
◾️
長野の大桑村から出てきた俺にとって、東京は全てが異質だった。
電車を乗り継ぎ到着した駅はひっきりなしにアナウンスが鳴り響き、人々がひしめいている。どこか湿った空気感の巨大なプラットフォームはSF映画のワンシーンのようで、さながら俺は主人公。憧れの大都会の大地を踏み締めた今、サクセスへの道が切り開かれたのだ!
ともかく街を見てみよう……東京の街を……!
意気揚々と進み、階段を上がって改札を出る。目に飛び込んでくる広いアベニューと、その先に構築されたデッキ。先進的都市構想によって開発された偽りなきハイソサエティな構造。息を吸うだけで胸のワクワクが止まらず震える。今この瞬間俺はシティボーイだ。だが、気になる事があった。テレビで見たようなオーロラビジョン、スカイツリー、竹下通りが見当たらないのだ。
少し移動するのか? せっかくだ。山手線とやらに乗ってみよう。
駅に戻る。しかし、案内は中央線、南武線しかない。まさか他に駅があるのか。分からない。こうなったら人に聞こうと、通行人を捕まえる。
「あの」
「はい」
「山手線って、どこで乗ればいいんすか」
「新宿行けばいいっすよ」
「あ、新宿。聞いた事がある。どう行けばいいんですか?」
「中央線で新宿駅行きに乗れば着きますね」
「へぇ、どれくらいかかるんでしょう」
「一時間くらいかな」
「いち……そんな……中津川名古屋間くらいの距離が……」
「まぁ、ネトフリ観てればすぐっすよ」
「ありがとうございます。ちなみに、ここは何区になるんでしょう」
「あ、区じゃないっす。立川。立川市」
「……え?」
「西の方は普通に市なんですよ東京。ま、田舎っすね」
「いな……か?」
衝撃だった。
これ以上の街が、東京にあるのかと、絶望に近い感覚が体を襲った。
「じゃ、僕忙しいんで」
「あ、はい、ありがとうございます……」
呆然。
松本、長野、名古屋。でかい街と遜色ないこの立川とかいう場所が田舎だという事実。俺は、とんでもないところに来てしまったのではないかと萎縮していく。
「新宿……いったい、どんなところなんだ……」
山と川と桃と檜に囲まれた生活をしていた俺にはこれ以上の都会が想像できなかった。しかし、それを、鉄とコンクリートの街に憧れ俺は村を出てきたのだ! ここで怖気付いているわけには、いかない!
「行くしか、ないか……!」
孤独との戦い。恐れをおして進み、ちょうどやってきた中央線に乗る。
「目指すぞ都会……新宿を……!」
静かに決意を言い聞かせ、俺は「次は日野」と流れる車内案内を聞きながらそっと、目を閉じて待った。魔の地、新宿への到着を。
西国分寺経由 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます