手錠と拍手
@ekunari
第1話
私は高校一年生の冬を千葉県の片隅で迎えた今の今まで、勉強でもスポーツでも、一位にも二位にもなれたことがない。
一方で私の母親は昔から、何事でも二番目を目指していたらしい。
二番目の女は最も自由がきき、最も得をして、最も幸せになれる、らしい。
だから母は恋愛においても、常に男にとって二番目の女でいるように努めた、らしい。
よくそんなことを、酔っぱらったままの朝、母は私の登校時間いっぱいまで自慢してる。
けれどその割にはうちには父親が最初からいなかったし、お金にだって苦労してた。
街のガールズバーに勤めだしたのは、単純にもっとお金が欲しいと思ったからだった。
将来の選択肢というのは、どうも単純に、どれだけ自由にできるお金があるかで決まることが多いように思えた。
オーナーは私の年齢を知った上で雇ってくれた。
いわく、喫茶店で高校生のアルバイトなんて珍しくない、うちも飲食店なんだから、問題ないだろうと。
その割にはお客に歳を言うなと言われたので、なにかしらの問題はあるんじゃないかという気はする。
一応、ごく軽くだけど、オーナーからはお酒もタバコもやるなと注意され、その通りにしていたら、同い年で似た境遇の別の子が、
「あんたまじめにそんなの守ってんの、ばかじゃないの」
と言いながらタバコ片手に缶ビールを空けていた。
どっちがばかなのかは私には分からない。
うちの店の女の子でアイドルグループ作ろうぜ、と言い出したのはオーナーだった。
千葉県のアイドルだからグループ名はバチバチガールズな、と言われて誰も反対しなかったのは、女の子全員が心底どうでもいいし絶対に長続きしないだろうと確信していたからだと思う。
メンバーには、二十何人いる女の子の中から、十二人が選ばれた。
かわいい順でも、人気がある順でもない。歌やダンスは程度の確認さえされなかった。
基本、オーナーと仲がいい順だった。
そのせいで、私もメンバーに選出されてしまった。その時にはもう私は、いわゆるオーナーの女だったから。
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