◆臨死体験の考察◆
茶房の幽霊店主
第1話 ◆臨死体験の考察◆
※(店主と身内の体験談の考察です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
☆注:あくまでも私個人の素人考察です。
不可解な事象の考察をご来店されたお客様と行うこともあります。
◇◇◇◇◇
〔母の臨死体験〕
母は一昔前、体調不良で病院に行った際、腸に腫瘍が見つかりました。
摘出手術がはじまり、検査の時点でわからなかった悪性と思われる腫瘍の癒着と浸食部分が深かったため、面積を多く摘出を行い無事に生還しました。
生まれて初めての全身麻酔を受け、麻酔がまだ完全に切れていない意識がもうろうとしている状態で看護師さんと会話したそうで、
『ああ、いい夢を見た! キレイな花がいっぱい咲いてる! 池があって……白い鳥が飛んでいる』
そんなことを言ったそうです。
【夢】の内容はなぜか家族に一部しか伝えられず、その後、手術前に麻酔を施した麻酔科の医師や、病院内でもあまり一般病棟に来ない医師など数名が母のベッドを取り囲んで、麻酔の際に見た【夢】について細かく聞かれたようです。※(このやり取りは後ほど母から聞きました)
【夢】というか、麻酔がまだ残った状態での会話ですので、現実と記憶が混在していたのだと思うのですが……。
初めての全身麻酔からの覚醒時に、色々と自分から話し始めるケースがこの病院では珍しかったのかもしれません。
考えられるのは「麻酔が効きすぎている状態」で脳が中毒症状を起こしていた可能性です。
もしかしたら、母が麻酔から完全に醒めることができず脳へダメージを受け、そのまま障害が残ったかもしれません。
手術・全身麻酔後に「花畑や鮮やかな色彩の風景を見る」という現象。
美容整形で瞼(まぶた)の施術を受けた際、「瞼の裏側で極彩色の虹が見える」と言う人が多くいるそうで、もしかしたら主に麻酔が要因になっている可能性が高いのではないかと考察しました。
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〔Jさんの臨死体験〕
店のお手伝いと裏方をしていただいている副店主Jさんの体験談です。
朝から雨が降っていて、外出するのは嫌だなと思っていたのですが、仕事で必要なものを買うために原付で出かけた際、濡れた路面で横転してそのまま鉄柱に激突、目の前が真っ赤に染まりそのまま意識を失いました。
気が付くと辺りはすべて濃霧に包まれて、方向感覚は完全に麻痺した状態でしたが、とりあえず歩き始めました。
足元は舗装されていない地面の感触です。しかし色は無色。
靴は履いていたそうですが、服装についての記憶は曖昧です。
※(白っぽいパーカーとジーンズ?)
進んでいればどこかにぶち当たるだろうと、楽観的に歩みを進めていましたが、相変わらず霧は濃く、晴れるようすなどありませんでした。
ふと、空気が動いているのを感じて、その風を追いながら更に歩き続けると、目の前に【穴】が現れました。穴は1つ。トンネル・かまぼこ状ではなく、完全な円だったそうです。
そこから風が吹いていて、穴の中は真っ暗で何も見えませんでした。
風は【穴】の中から吹いていましたが、急に風向きが反対に変わり、風圧も変化しました。風は【穴】がある方向へ吹き、台風のときのように背中を押し始めたのです。
直感で『このままこの場所にいるのはヤバい』と思い、反対の方向に走って遠ざかろうとしました。
「おまえはもういちどここにくる」
誰が言っているのか、どこから聞こえるのかは判断できず、そのまま全力で走り続けていると、強い光に包まれ、急に目の前に白色の行き止まりが見えました。いつの間にか病院のベッドの上で横になっていたのです。
『よかった!目が覚めた!』と家族がベッド周辺で大騒ぎしていました。
全身包帯でぐるぐる巻きになって、体から点滴のチューブがたくさん伸びている。あちこちの痛みから重症を負っているのだと理解しました。
『あんた、さっき変なこと言うからびっくりしたけど、目が覚めてよかったわ!』
母親が涙目で話しかけてきたのをはっきり覚えています。
事故の日から4日が経過していました。
『……変なこと……?』
『おまえは、もう一度、ここに来る。とか、気持ち悪い声出すし、このまま〇んでしまうんじゃないかって心配していたのよ』
※※※※※
ここからは考察です。
副店主Jさんが見ていた風景は、恐らく〔臨死体験〕だと思われます。【命を落としそうになる】一時的な仮死状態。
〔臨死〕の際、見ると言われる〔花畑〕〔川〕〔鮮やかな色彩の美しい風景〕〔懐かしい人物・すでに他界した人の登場〕ではなく、〔濃霧〕と〔穴〕というあまり聞いたことのない風景でした。
事故で横転したとき、全身へかなりのダメージがあったためか、痛みよりも『あったかくて気持ちいいな』という状態だったそうです。
負傷・激痛からショック死を回避するため、多量の脳内麻薬が放出されていたのではないかと推測します。
人間の体は【生命活動の完全停止】を回避するため、生き残りを懸けてあらゆる可能性を試すのではないか?
また、過剰に放出された脳内麻薬は、脳機能への影響、脳の構造変化を引き起こす場合もあります。
ただ、〔臨死体験中〕に聞いた【声】。
Jさんが意識を取り戻す際に発した【台詞】の符合については、脳内麻薬の作用が大きいと思うのですが、不気味であるとしか今のところ言えません。
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【追 記】
ケルト神話における死後の世界に2つの穴の話がありますが、これは「入口」と「出口」だそうです。
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Jさんが見たという穴は1つ。
途中で風向きが変わり、風は穴に向かって吹いていた。
穴の向こうへ行けそう。でも、「出口」・帰り道がない?
※上記は来店中だったお客様による考察です。
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〔店主の臨死体験〕
健康が損なわれている状態は17歳ぐらいがピークで、精密検査を何度も受けていましたが、「貧血・低血圧」以外、病気らしい病気は見つかりませんでした。
投薬治療・あらゆる改善方法を試したのですが、一向に回復することなく、実家を出て自立した生活を始めると、自然治癒したので今は健康です。
〔貧血による失神〕は始まる時に独特の予兆があるので、街中や移動中、予兆が現れると車や人に当たらないよう道の端へ寄って対処する、〔失神のプロ〕になっていました。
その日は朝から冷や汗が出ていてかなり調子が悪かったので、学校を休むか悩みましたが、何とかなるだろうと自転車で登校をしました。
秋から冬のはじめだったので、木枯らしが吹いて更に体温が奪われていきます。失神の予兆が起こったので、自転車をとめて道の端に寄ったのですが、足がもつれて倒れ込んでしまいました。
道を挟む縁石で右側頭部をガードすることなくかなりの勢いでぶつけて、頭髪の根元から、熱を持ったものが流れ出ていくのを感じながらそのまま目を閉じます。
あれ……。これもしかしたら、〇ぬ?
初めてそう思いましたが、アスファルトに体が縫いつけられたようになって指一本動かせず、そのまま地面に意識が吸い込まれていきました。
目を開けると、いつの間にか赤い自転車に乗っていて、幅15センチぐらい、高さ2メートルの白っぽい、直線の細道のようなものの上にいました。
左右は黄色いレンゲ畑。上空は薄暗い曇り空。湿度は高くわずかに煙か蒸気のようなものが漂っています。
はるか遠くに明かりが見え『ああ、早くあの場所まで行かないと』と自転車を漕ぎ始めました。
全身を浮遊感が包み、細い道幅をものともせず、ぼんやりと優しい光を放つ明かりを目指していきます。大体半分の距離まで来たときでしょうか、
進行方向の右側から『行ったらあかん!』と、関西なまりの女性の声が聞こえ、姿の見えない者に右から思いっきり突き飛ばされて細道から落下。
自転車のままレンゲ畑に激突して、≪グシャッ!≫と体が潰れるリアルな感触だけ残して暗転しました。
『動かないで!頭から血がでてるから。今、救急車を呼んでます』
見知らぬ女性の声が聞こえ、体を起こそうとしますが重くて動けません。顔が土気色で爪が紫色になっていたため、近隣の人が貼るカイロを付けた毛布をかぶせてくれていたのです。
これが初めての救急車での搬送でした。
※※※※※
ここからは考察です。
失神からの転倒。右側頭部への出血を伴う外傷。
その後に意識を失ってから見た風景だったので〔臨死体験〕として加えました。
色鮮やかな風景も、懐かしい人物もおらず、奇妙な白い細道を赤い自転車で進むという体験でした。
女性の声が右側から聞こえてきたのは、恐らく頭の右側を強く打っていたためではないかと思います。右側から突き飛ばされたのも同じ影響ではないと。
※(女性の姿は見えませんでした)
湿地帯のような重い空気、黄色いレンゲ畑の甘い香りを感じ、また、あたたかい微風が遠くのぼんやり灯る明かりの方角から吹いていました。
夢と現(うつつ)の狭間ような風景でしたが、突き飛ばされた衝撃、後の落下する感覚、レンゲ畑に叩きつけられて体が自転車ごと潰される感触はかなりリアルに感じました。ちなみに痛みはないです。
レンゲの花が擦りつぶされ青臭い甘いにおいを放つのを嗅いでから引き戻されたので、できたら地面に落ちる前に目覚めたかったです。
死の疑似体験。〇ぬ瞬間はあのような感覚なのかもしれません。
体が限界まで生きようと策を練って、藻掻いていたのだろうと思われる不思議な体験(臨死体験)でした。
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1.手術・全身麻酔からの覚醒時・多幸感あり・幻想的な風景。
(麻酔効果中・意識回復後に質疑応答)
2.事故・手術・多幸感あり・4日間の意識不明・重体からの生還。
(白い光を見てからの意識回復)
3.事故・失神時の転倒・多幸感(弱)・右側頭部への出血を伴う外傷。
(暗転からの意識回復)
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以上をもって、各〔臨死体験〕の個人考察を終わります。
◆臨死体験の考察◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom
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