リアルラックカンスト勢が難易度鬼畜のMMORPGをやったらどうなる?

ポテポテト

第1話 リアルラックカンスト男、VRMMOに降り立つ。



賭時運真――通称「リアルラックカンスト男」。



そう、俺の名前だ。


今日も特に何もない普通の放課後だと思っていた。帰宅すると、家の前に見慣れない大きな箱が置かれていた。


「……何これ?」


差出人は《HELL STOA ONLINE βテスト運営》。


箱を開けると、中には漆黒のヘッドギア――【HELL-ST LINK装置】が入っていた。


なにやらとんでもない機械みたいだぞ???

そして箱を開けてみる。


同封の紙にはこう書かれていた。


【当選おめでとうございます】

《HELL STOA ONLINE》クローズドβテスト参加権

当選者:世界500名


さらにその下に、世界でただ一人の追加当選通知。


【特別追加当選:プレミアβ特別枠】

・感覚同期率大幅向上

・ステータス微補正

初期称号選ばれし運命

・未鑑定ユニーク潜在スキル1枠所持

・特別イベント発生の可能性

※辞退不可


「……辞退不可って、押しつけじゃん」


仕方なくヘッドギアを頭に装着すると、視界が淡く光り、身体がふわりと軽くなる。


《HELL-ST LINK 起動》

《脳波同期:完了》

《五感フィードバック:85%(プレミア枠)》

《プレミアβ権限確認:OK》


画面に文字が浮かんだ。


――プレイヤー名を入力してください


俺は少し考えた。

ゲームでは運だけは超人級にある。人生で何度も、何でも当ててきた。

なら、それを象徴する名前にしよう――


ラック。運の象徴。幸運の印。

そしてオーメン――前兆、兆し、運命の印。


ラック・オーメン。


《名前登録完了》

《ラック・オーメン、ようこそHELL STOA ONLINEへ》





一瞬の眩暈の後、世界が開けた。


目の前は無限に広がる草原。風が頬を撫で、草のざわめきが足元に伝わる。

ステータス画面が開き、初期能力を確認する。


プレイヤー名:ラック・オーメン

本名:賭時運真

レベル:1

ジョブ:なし(Lv10で解放)

HP:100/100

MP:25/25

筋力:10

敏捷:11(特典補正)

器用:10

知力:10

幸運:???(測定不能)

称号:選ばれし運命

潜在スキル:未鑑定ユニーク1枠


「測定不能ってなんだよ……」


俺は深呼吸して草原を歩き出す。

風の匂い、遠くの鳥の声、草の柔らかさ。

これがただのゲームなのか? 本当にそうか?


しばらく探索していると、茂みが突然大きく揺れた。

牙が光り、低い唸り声。


フェローファング・ラット(Lv2 HP:20/20)


「ネズミか!」

牙をむき出しにし、飛びかかってくる。

俺は枝を握り、横に滑り込みながらかわす。

ラットの跳躍角度が微妙に変わる。前回の軌道でかわそうとすると、素早く方向転換して爪を振り下ろす。


「……くそ、動き読めねぇ!」


枝を振り下ろし、ラットの体を弾き飛ばす。

しかし跳ね返って立ち上がる速度が異常に早い。

油断すると、すぐに牙が腕をかすめる。


フェローファング・ラットのHP:0/20

《フェローファング・ラット撃破》

《スキル【簡易回避】習得》


次に、風が強くなる。丘の向こうで影が揺れる。

俺は慎重に足を進める。草の感触、足の着地角度、影の揺れ――すべてを意識する。


スパイクビートル(Lv4 HP:15)


甲羅の硬い背中を揺らしながら、突進してくる。

跳躍してかわすが、角度を微調整しながら何度も突進を繰り返す。

枝での攻撃を試みると、甲羅の厚さに弾かれ、跳ね返る衝撃が腕に伝わる。


「HP半分は減ってる……気を抜くな」


ビートルは低く回転しながらの突進を仕掛けてきた。

片足で踏み込み、回避するが、腕に切り傷が入る。

敵の攻撃パターンは複雑で、一瞬の判断が生死を分ける。


スパイクビートのHP:0/15


《スパイクビートル撃破》

HPは半分以下、息は荒い。


丘の上に立ち、風を受けながら草原を見渡す。

青空の下、光は柔らかいが、体の内側はまだ戦闘の熱で焼けつくようだ。

敵はまだ潜んでいる――この世界は、運だけで安全にはならない。


ふと、今までの戦闘を振り返る。

「……どうやって、倒してたんだ、俺?」


戦闘経験は現実世界では剣道しかない。素手で敵と向き合ったことなど一度もない。

だが今、目の前の敵を倒し、生き延びている。

手元の所持品欄を開く。


《所持品》

・初期装備:木製の枝×1

・簡易応急薬×3


「……これだけか。俺、ずっとこれ一本で戦ってたのか」


剣道の感覚が、体に染み付いていた。

踏み込み、受け流し、反応のタイミング――すべて応用できる。

敵の牙や角を避けるとき、ジャンプや体勢の変化は、剣道の技を自然に体が覚えていたのだ。


ラットの牙をかわす、ビートルの突進を受け流す、リザードの炎を避ける――

すべて素手や枝での戦闘だが、体の反応と運が補ってくれた。


「運だけじゃなかった。体が覚えてたんだ、剣道の動きを」


胸の奥にざわめく感覚――

(……この世界、ただのゲームじゃない……)


丘を降り、枝を握りしめ、俺は次の一歩を踏み出した。

草原は美しいが、そこには過酷な試練が待っている。

一瞬でも気を抜けば死ぬ、全感覚を研ぎ澄ませる戦いが続くのだ。


遠くで微かに、別のプレイヤーの声が聞こえる。

まだ出会いは先。俺の一人の試練は続く。

運だけでは守れない、未知の試練の始まりだった。



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