千羽鶴

茅野うつぎ

「『ほんぺん』っておいしそうだよね」

0 邂逅

 学校の屋上。そこは通常、立ち入り禁止の場所だ。

 うちの学校も例外じゃない。僕らの通う中高一貫校では、屋上は立入禁止の場所とされていた。

 そのはずの屋上で、僕はいつも、本を読んでいた。もちろん、公認じゃない。屋上の扉が劣化しているのを良いことに、僕はいつも屋上に入り浸っていたのだ。


 その日もいつも通り、屋上で静かに本を読んで――不意に、扉が開いた。教師が入ってきたのかと僕は身構えるが、入ってきたのは中学の名札をつけた少女。僕は、肩の力を抜いた。


「……ここは立ち入り禁止の場所だよ」


 僕が親切にもそう教えてあげると、少女は僕を向いて、不思議そうに首をかしげる。


「でも、君も入ってる」

「僕は常連だからね」

「常連だったら入っていいの?」

「そういうわけじゃないけど」


 僕がそう言うと、少女は「なら、よかった」と言って扉を閉めた。なにがよかったのか。


「……なにしてるの?」

「本を読んでる。見てわからない? それから、僕は君より先輩だよ」

「じゃあ、名前は『先輩』だね」

「敬語を使えって話だよ」


 少女は名前を千鶴ちづるといった。名札にも、そう書いてある。どうやら偽名ではないようだ。

 千鶴は不思議なやつだった。僕が何かを言うと、それとは斜め上にある返答を持ってくる。


「カエルって美味しいらしいよ」

「じゃあ、きっとトカゲも美味しい」


 これは、そんな僕と千鶴の物語。

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