ロボット市場の人間

ちびまるフォイ

ロボット(の)奴隷

「今日からこの現場に入る、新人だ。

 みんな仲良くやってくれよ」


まばらな拍手のあと、仕事があっさり再開される。


「あの、僕は何をすれば」


「ほらスコップ。なあに簡単なことだ。

 ここの穴を掘るだけでいい」


「掘るだけ? なんの意味が?」


「意味はない。ただ穴を掘るだけだ。

 俺達が掘った穴を、ロボット修繕業者が埋めてくれる」


「それになんの意味が……」


「もうぜーーんぶAIに仕事取られたから、

 人間はこういう無駄な仕事をするしかないんだよ」


ひとしきり穴を掘ったり、わざとゴミを捨てたりしておく。

たまに手袋のかたっぽを道に落としたり。


こうして現場の人たちはあえて街に無駄を撒き散らす。


あとは街に巡回している清掃ロボットや、

道路の修繕ロボットたちの仕事のがんばりどころ。


「人間の存在価値ってなんなんですかね……。

 これじゃ主従逆転じゃないですか」


「ロボットじゃなくたってエリートがいたなら

 そいつの下で働くだろう? そういうことだ」


「こんな無駄なことを仕事と呼ぶくらいなら、

 いっそ何もしなければいいのでは?」


「無職じゃ人間は生きられないんだよ」


わずかばかりの報酬を受け取っては無駄な作業を繰り返す。

誰にも求められていないことを自分のためだけに行う。


そんな日々が続いた頃。

自分のあとに大型新人が入ってきた。


「これからこの仕事を代わるAIロボット・ウェイストです。

 みなさん、これまで無駄な作業ご苦労さまでした」


これには現場の人間たちも驚いた。


「おいちょっとまってくれよ!?」

「俺達はどうなるんだ!?」


「仕事を作り出すための仕事、として

 我々が引き取ることになりました。

 みなさんはお払い箱です」


「ロボットに無駄ができるのかよ!?」


「はい可能です。これまであなた達人間に任せていたのも

 "無駄"を理解するための学習期間でしかなかったのです」


「そんな……」


「これからはロボットが、効率的かつ無秩序に無駄をつくり

 よりほかの作業ロボットが仕事をしやすく改善できる社会にします」


非常な宣言によりすべての従業員は一律無職となった。

もちろん自分も。


「はあ、困った……。これじゃ明日の食事もありつけない……」


「おい新人。ちょっと話がある」


「もう無職なので新人もなにもないですよ」


「この世界でもまだロボットが手つかずの仕事があるらしい」


「そんなわけないでしょう?

 仕事を作るための仕事すら奪われたんですよ?

 もはや人間が介入する余地なんてないです」


「いいや、まだある。ほらこれをかぶれ」


「これは……てぬぐい?」


「いまだロボットに汚染されていない手つかずの職場。

 それは犯罪市場だよ。警察ロボットに仕事を作るため、犯罪をするんだ」


「そんなの捕まったら……」


「捕まらなきゃいい。警察ロボットから逃げおおせたなら、

 警察ロボットを管理している団体から報酬がたんまり手に入る」


「そうなんですか!?」


「警察ロボットに仕事を与えてくれた感謝ってわけだな。

 さあいくぞ。ぜったいに捕まるなよ!!」


まさに一攫千金の人生大逆転チャンス。


警察ロボットに仕事を作り出せれば億万長者。

逆に捕まってしまったら人生敗者確定。


でも自分にはもう失い物などなにもない。

だったら挑戦するしか無いと思った。


人間たちで綿密な計画をたてて、

犯罪率0.000001%のこの街で警察ロボットの仕事を作るため

"犯罪"というなの仕事がはじまった。


しかし誤算だったのは、警察ロボットのあまりの優秀さ。


「に、逃げろ新人ーー!!」

「うわぁあ~~~~!!!」


たいして知恵のない人間が頭を寄せ合って考えた計画。

そんなザルい計画などでロボット警察を出し抜けるわけもない。


しょっぱなの実行段階でつまづき、

あっという間に警察ロボットに追われてしまった。


ロボットのために完全犯罪をするなんて、どだい無理な話だった。


「◯月▲日、~~の現行犯で逮捕します」


「うう……。無職どころか前科持ちになっちゃった……」


全員はすべからく逮捕されてしまった。

保釈金が払えるはずもなく、ただ牢屋の冷たい床で過ごすことに。


一緒に犯罪をした人はみんな人生に絶望して獄中死を選んだ。

自分もこの流れに乗ろうとしたが、看守ロボの対策が早かった。

獄中死すらできないようになってしまう。


「これからどうすればいいんだ……」


いっそこのまま監獄で過ごすほうが幸せなのかもしれない。

仮に外へ出ても、もう自分の仕事はあるのだろうか。


ふたたび犯罪に手を染めるしか選択肢はない気がする。


獄中の暇つぶしで必死に警察ロボ対策の計画をねった。

時間だけはいくらでもある。


数年後、やっと刑務所から解放される。


「もう戻ってくるんじゃないぞ」


「ロボットにそんなこと言われるなんて……」


「そうプログラムされているので。意味はわかってません」


「はは……」


刑務所を出るなりやることは決まっていた。

今度こそ完全犯罪をなしとげて一攫千金を……。


そう思ったが、自分が捕まるよりもパトカーがひっきりなしに出動している。


「あれだけ犯罪率少なかったのに……。

 俺がシャバから離れた数年でずいぶん物騒になったな」


「ああ、今は犯罪者ロボが活躍しているから」


「え゛」


「昔じゃ税金ドロボーと言われていた警察ロボも、

 犯罪者ロボのおかげで日々仕事と改善を繰り返している」


「うそん……。犯罪の仕事もなくなっちゃった……」


自分が獄中で必死に考えた完全犯罪はなんだったのか。

犯罪ロボが活躍するようになったので、もう犯罪をおかしても報酬は出ないだろう。


「これからどうやって生きていけば良いんだ……。

 仕事をしなくちゃ報酬も手に入らない……。

 でもその仕事はすべてロボットに代わってしまった……」


「いいえ、まだありますよ。人間のあなたにできる仕事が」


「……それもどうせ、数年後になくなるのでしょう?」


「私の計算では無くならないと予測されています」


「そ、そんなうまい話が!?」


「ロボットはウソをつけません。やりますか?」


「もちろんです!! こんな時代に仕事がまだ残ってるなんて!!」


案内ロボに促されて指定の場所へと向かう。

漫画喫茶のような小さなブースが並ぶ場所にたどり着く。


「ここがオフィス……?」


「そうです。あなたの場所はそこです」


人ひとりが入るほどのスペースには、大量のモニターが並んでいた。

縦横、床、天井にまで360度モニターに囲まれている。


「へ……?」


仕事の内容がまったく読めない。


「能力のない人間でもできる仕事です。

 そしてロボットに取って代わられない仕事ですよ」


「ぐ、具体的にここで僕はなにを……?」


案内ロボは冷徹に答えた。



「24時間365日、このブースの中でロボットが故障していないか。

 それを永久に見守るのがあなたの仕事です」



それを聞き、もう監獄から出なけりゃよかったとさえ思った。

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