花天月地

夜月 輝哉

第1話

少年は月を見ていた。


人間界を統べる御三家の一角である月神家は代々、魔力の強い者を娶り、交配して強い血を残し、多くの家系の魔法を我が物にして力を手にして来た一族である。

そんな月神家の最高傑作として産まれたのがこの少年である。

一族は彼に多くを望み、欲望を満たした。

だが、彼にとって自分以外の人間は側が同じだけの別の生物であった。

「どれが母でどれが父なのか。」気味の悪い生物達との生活に少年は愁いていた。

「対等な存在が欲しい。」少年はただそれを望んでいた。

欠けた心が満ちる時を夢見て月を見ていたその時、

「……一瞬月が赤くなった……?」

一瞬月が赤く見えた。あれはなんだったのか?そんなことを考える間もなく背後の唯ならぬ気配に身体が動かなくなる。

「みつけた」

声が聞こえた。美しく透き通った少女の声。

スタスタと正面まで歩いて来てその少女は顔を覗き込む。

「おぬしが神の子か、腑抜けた顔をしよる」

猫のような瞳孔の紅い眼に、青白い美しい髪。ここまでならば人間として受け入れられたが、その少女の額には魔界に住む者達特有の角が2本、背には天界に住むとされる者達の象徴である翼が6枚生えていた。

「君はいったい…」

何を考えるよりも先に声に出ていた。今の自分の感情が分からない、この震えは未知との邂逅による恐怖による物か、やっと分かり合えるかもしれない存在が顕れた事に対する歓喜なのか。

「我は死を司る者である。おぬしと契約をしに来た」

彼女の言葉の意味を考える間もなく、僕は殺された。

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