そして少年は空に舞う

るろうに

そして少年は空に舞う

僕は、自由だ。


モニター越しに途方もなく広がる青空を前にして、僕はいつもそう感じる。根拠などはない、むしろそんなものはなくていい。この時だけは、自由なのだ。


空というものは本来は何者にも縛られず、何者にも奪われない自由なものだ。かつて飛行機が往来していた頃も、渡り鳥が大陸間を好きに飛び回っていた頃も、それは変わらなかったはずだ。


そう、"アレ"が地球に飛来するまでは。


国連軍八王子基地より飛び立った量産機・政宗の編隊は、低空のまま水平飛行に移行した。白を基調とした二足歩行型の、いわゆるロボットが低い空を飛ぶ。


もはや我々に守るべきものはない、それは常識と言っても差し支えない言葉であった。機体の背後に聳え立つ完全武装された高尾山が、その何よりの証拠であった。


「兵装の最終確認を行う」


隊長の勇ましい口ぶりがコクピット内に反射する。僕は慣れた手つきで確認を進める。


「超高温度振動刃、全て異常なし……と」


政宗の名前通り、刀を装備したこの機体は、酷く数の減った人類の最後の希望だ。


僕は、そんな訓練学校で叩き込まれた知識を頭の中で反芻した。何かに怯え、何かに震え、何かに負け続けた僕にとっては、知識は唯一の安寧だ。


機体が旧・東京都心部の上空にさしかかった、その時だった。


空が、光った。隊長機が、爆発したのだ。


何が起きたか見当もつかない。頭の理解が追いつかない。


そうしているうちに、編隊は徐々に崩壊した。一機一機がバランスを乱し、そして突如として大破した。


敵の新たな攻撃か?それなら、どこから?まるで見えない敵に襲われているみたいじゃないか。


いつのまにか機体の左手に握っていた刀が空を切り裂く。手応えがない。


「くっ……」


ああ、死ぬんだろうな。いま、ここで。


逃げたいと、いつも思っていた。逃げて、逃げて、逃げてばかりの人生だった。その結果が、これなんだろう。


覚悟した。だが、刀を持つ左手が爆散し、機体が墜落しかけた時、僕の眼下に何かが映った。


人の、年端もいかない女の子の、空を指さす姿が。



そうだ、僕は自由だ。


そして、彼女も、自由だ。


僕は機体の右手に刀を装備し、大きく振りかざした。目の前が激しく光る。


この自由は、守る価値のあるものだ。僕は、そう確信した。

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そして少年は空に舞う るろうに @rurouni2025

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