超高齢化が進む勇者村の若人~最年少のオッサン2人で竜王討伐~

佐古涼夏

第1話 旅立ち

 この村に普通の人間はいない。


 村民は転生前に何らかの偉業を成し遂げた人たちだ。

 たとえば、隣人のコウメイさん。

 おそらく、蜀の軍師だった人だろう。

 彼の真向かいにはユリウスさんが住んでいる。

 たぶん古代ローマの政治家だろう。


 私は何の偉業も成さず38歳で過労死した元会社員だ。

 5年間、不眠不休で働いたことが評価されたのだろうか。

 いまは文字通り晴耕雨読の生活で気楽に暮らしている。


 村民の多くは転生してから竜王討伐を果たした勇者ばかり。

 でも、おっかない人はおらず、優しい人たちばかりだ。

 こうして布団に転がって本が読めるのも彼らが竜王を倒した平和の上に成り立っている。


 幸福感を抱きしめながら読書していたら家のドアを叩く音がした。

 私は、どうぞと声を張り上げた。

 名は知らないが大柄な男が入室してきた。


「おまえ、カナタだな。村長が呼んでいる。いますぐこい」


 私は部屋着のまま村長のもとへ行った。

 村長はスーツ姿で身綺麗にしていたが、禿げ頭だった。

 頭の角度を変えるたび光の反射が変わるので私は口元が緩むのを抑えるのに必死だった。


「カナタ、いますぐ竜王討伐に向かえ」


 ん? 聞き間違えかな。私は黙っていた。


「知ってのとおり、この村は類を見ない高齢化が進んでいる。何の才も持たぬおまえを行かせるのは心苦しいが理解してくれ。この村で最年少はおまえなんだ」


 最悪だ。他に強い人いるだろ! 


 言葉を発する代わりに舌打ちしてしまった。

 と同時に背後に誰かいるのがわかった。


「仕方ありませんね。ところで私の後ろにいる御仁は?」


 村長は首をもたげて頭を光らせると、


「ケンサク、出てこい」


 と言った。


 私の横に黒服の男が並んだ。


 ちらと目をやると黒髪短髪、黒いネクタイに礼服。横顔は凛としていて男前だと思われる。


 しかし何で礼服、いや喪服なんだよ! 

 タイピンが緑なのもおかしい!


「カナタ、おまえを勇者総代に任ずる。秘匿大勇者のケンサクとともに竜王を討伐せよ」


「はあ……。しかし、秘匿大勇者なら一人で十分なのでは?」


 村長は髪のない頭を掻いた。


「おまえが同行する理由はそのうちわかる。竜王が何度も復活することは知ってるな? 今回現れた竜王は最恐で最強のようなのだ。とにかく頼む!」


 若干ふざけた言い回しが気に食わなかったが私は了承してケンサクとともに村長の家を辞去した。


 村人の喝采を浴びながら村門をくぐった。

 数歩先を歩いていたケンサクが振り返った。


「不愉快だ」


「は?」


「君のことだよ。顔といい服装といい不愉快だ」


 こいつ何様だよ! 強情そうだったので帰宅して髭を剃り、喪服に着替えてすぐ戻った。


「随分いいじゃないか。じゃあ、行こうか」


 爽風が吹き抜け、木々の葉がカサカサ鳴った。

 ケンサクは優しい目をして微笑んだ。


 なんだよ、性格悪いキャラじゃないんかい!

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