第2話 寝起きが悪い魔王の国難対処

時計は十時を三分過ぎていた。これで早いのか?と思った。そして、この世界には目覚ましというのがないので、俺は、起きるのが苦手だった。だが、魔族も同じなのだろうか。



「おはようございます。10時で早い方なんですか?」

「私も早く起きるのが苦手でね。仕事をいつも遅くしてもらってるんだよ。」



そうして正装に着替えた。黒いコートのようなものだ。雪国だからなのかとても暖かく作られているようだ。魔族の正装はいかにも魔族って感じであった。



「蒼、行くよ。」

「え?僕もですか?」

「君は、旦那兼宰相だから、当然でしょう!!」

「なるほど!」

「今笑うとこだよ?宰相だから、当然でしょう!って言ったじゃない!」



剣技だけ磨きあげてきて、会話をしてこなかった俺にはついていけなかった。でも、こういうギャグは、嫌いじゃなかった。ただ、誰もクスリとも笑わなかったのは当然でしょうと言ってやりたかった。



「手下?部下?を困らせてはいけませんよ!」

「わかってるってーば!」



そうして俺たちは、会議室に入った。

「そういえば、大事なこと聞き忘れました。名前はなんていうんですか?」

「結婚したのに名前言ってなかったね。私は、ジェラーニカ、きみは、旦那だから、ジェリューシャって呼んでいいよ!で、君の名前は?」



前世で言うロシア語みたいな響きだなと思った。いや、ロシア語は勉強したことないのだが、なんとなくそう思っただけだ。

「僕の名前は、黒鉄蒼(くろがねあお)」

「長い名前ね。」

「黒鉄は名字で蒼が名前です。」

「名字ってなに?」

「名字は和の国、白狐の国だけあるもう一つの名前のようなものです。」

「なるほど。私も和の国にいってみたいなー」



ジェリューシャが童心に戻った少女のような笑顔を見せる。

「いつか行きましょう。でも、和の国では、魔族は恐れられているから、なかなか難しいかもですね。」

「ちなみに、この国は、ブーリャスクっていうんだけど、女が少なくてねぇ。だけど、誘惑に負けちゃいけないよ。」



男性の俺は希少種!?浮気するつもりはなかったが、正直わくわくした。ハーレム生活を夢見て、転生したが、それも夢ではないのか。

「わかりました。じゃあ、いっぱいいちゃいちゃしましょう。」

「もう蒼ったら、みんなのいる前でー」

「魔王様、そういうのは、我々のいない所でお願いいたします。」



グローモフが呆れ顔で言う。

「おーすまんすまん。」

「今日の議題は?」

「はい、魔王様、議題というのは、我が国ブーリャスクが併合しているウディルガルドについてです。」

「ウディルガルドがどうした?あそこは、特に大きなトラブルもないような国ではないか?」

「それがガンダオに襲撃されまして」

「またガンダオか…。」



「あそことはいつ戦争になってもおかしくないからなあ。できれば、あまり騒ぎは大きくしたくないからな。いい策はない?でも、ウディルガルドに侵攻されるのも嫌だしなあ。ガンダオって国の幹部を人質にするのはどう?」



ジェリューシャは、強いらしいが、そんなんでこの国を担っていけるのか。いや、もう担ってるのか。とにかく、彼女のことが不安になった。

「ジェリューシャ、それは、もっと大変なことになるんじゃないですか?」

「旦那様のおっしゃる通りです。魔王様が戦いたいのは、わかりますが、」

「誰かなんかいい案あるやついないか?」



ジェリューシャが不満そうに言う。

「魔王様、やはり、ここは、緊張感が高まらないように、話し合いでいくのはいかがですか?なぜ、襲撃したのかもわかりませんし」

「そうするか。また出張か。蒼もついてきてね。」

「わかりました。僕も行きます。」



ジェリューシャとのお出かけか。仕事とはいえ、わくわくした。なんせ、女性と出かけたことは母親と姉とぐらいとしかないのだから…。

「他に議題はあるか?」

「魔王様のご結婚相手についてなんですけど…。」

「何か問題があるか?」

「いえ、問題はないんですが、人間をブーリャスクの宰相にしても大丈夫なんでしょうか?魔族の中には怖がってるものもいますし…」

「大丈夫。蒼は、優しい人間だ。問題ない。私が長年、水晶で見てきたからな。食事の時も敵を倒すときもシャワーの時もトイレの時も一人で慰めるときも見てきたから大丈夫だよ。」



四天王の表情を見たが、顔が少し引きつってるように見えた。無理もない。この俺ですら引いてるのだから…。

「魔王様、それはストーカーの域では…?」

「うるさい!文句あるか!蒼を眺めてる時だけが私の幸せなひと時だった。そして、これからは、水晶越しじゃなくても蒼を見続けることができる。なんという幸せだ。」

「魔王様がお幸せなら、このグローモフこれ以上幸せなことはありません!」

「おお、グローモフ、いつもありがとう。グローモフもそういってることだし、いいじゃないか。」

「はい。わかりました…。」



とそこにいる四天王一同が言った。

「周辺国との関係も最近は良好なので、今日の議題はほかにはありません。まぁ、ガンダオとはあまり関係はよろしくないですが…。」

「そうか。じゃあ、パーティーの準備よろしく!」



とジェリューシャが言い、俺たちは、会議室を後にした。

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勇者だが、魔王に求婚されてしまい、討伐対象が今日から配偶者になった件 犬海よる @inuyama_inumi

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