前編

第一章 再会の旅路

第01話 向かう先は

 プリセリドを出て何日経ったであろうか。長く生きると時間の流れが早く感じてしまうな。若い頃はもっと1日が長かったのに。まぁ……肉体的にはまだまだ若いんだけどな。でもここのところは少し、ほんの少しではあるものの、1日が長く感じるようになっていた。高揚しているからかな。何かを楽しみにしている間は世界が遅くなる。何故かは分からないが、そういうものなのだ。心理的なものか……もしかしたら本当にそうなっているのかも知れないな。そんなくだらないことを考えながら、おれは木漏れ日の中を歩いていた。森の匂いは嗅ぎ飽きた……とは思っていたものの、森によって匂いは少し変わるようだ。似たような匂いではあるものの、土の匂い、木の匂い、空気の匂い……どれを取っても微妙におれの暮らしていた森とは違う気がする。………いや、やっぱり気のせいかも知れない。同じだと思えば同じだ。でも違うと思えば………なんてことを1人で考えていると、向こうの方から何者かの気配がした。誰かが魔物に襲われているようだ。おれは走ってその場に向かった。


 ……老人の引いている馬車が森林狼フォレストウルフに襲われている。10匹くらいいるな。……それにしたって大した魔物じゃないんだが……護衛は付けてなかったのか?とりあえず追い払うか。おれは魔素をぶつけて狼を撃退し、襲われていた老人に声を掛けた。


 「大丈夫か?おっさん。」


 「あ、ああ。……助かったよ……。」


 何が起こったのか分からず、困惑している様子だった。けれどおれが助けたというのは分かっているようだな。だからお礼をしたいとのことで、隣町まで馬車に乗せてくれるそうだ。魔神と戦ったときの後遺症で身体が弱ってるから割と助かるな。………まぁ弱ってるとは言っても長期的な運動が出来なくなっているだけではあるが……。何はともあれ、おれは荷車に乗り込んだ。色んな骨董品や、魔道具やらを運んでいるようだ。


 「おっさん商人か?護衛は付けてなかったのか?」


 「ああ。この辺りは滅多に魔物は出ないからね。そんなに金も無いし、森林狼フォレストウルフだって2、3匹なら追い払えるように準備していたんだけれど……。兄ちゃんには助けられたよ。はっはっ!」


 絶妙に能天気というかなんというか……。このおっさんはもう少し慎重になった方が良さそうだ。まぁ人には人のペースってもんがあるんだろうけど。


 「ところで兄ちゃんは何でこんな森にいたんだ?」


 「……魔界に行こうと思ってね。その前に人に会おうと思ってたんだ。」


 「へー……。魔界っていうとミスロン国だろ?大英雄様達のお墓にでも行くのか?」


 「まぁ………そうだな。」


 魔界では今、セリアが王として国を作っている。国とは言っても、クラン“煌焔”が支配する土地に人が住み始めたという感じだ。そのため世界的には国というよりも巨大な組織として強く認識されている。まぁその辺はどう捉えられても構わないか。それ以上におれの墓もあることの方がよっぽど問題だ。いや、実際に死んだようなものだから仕方ないし、今更生きてるなんて知らせても騒がれて面倒だからどうしろという訳でもないのだが……。


 「私は生きてる大魔王様も見てみたかったな。2年前までは生きてたんだろ?なかなかのイケメンだったって言うしなぁ。」


 「いやぁ……それほどでも……。」


 「あっはっは!誰が兄ちゃんに言ったよ!」


 大魔王というのはおれのことだ。英雄だの大英雄だのと呼ぶこともあるのだが、それだと昔の大英雄じいちゃんとの区別が出来ないとのことで大魔王と呼ぶそうだ。魔族との架け橋という意味もあるらしい。魔神の血を英雄と呼ぶことで、魔族と人間が歩み寄るきっかけになるとかならないとか。まぁおれの存在がセリア達の助けになるなら嬉しいものだな。


 「そうそう。おっさんよ、バンリューとイリアがどこにいるか知ってるか?」


 「ん?そいつはまた随分な有名人だな。兄ちゃん、知り合いなのか?」


 二人は人魔大戦、人類おれ達が三界や魔神を討ち倒した戦いで活躍した英雄だ。バンリューはかつて人類最強とまで呼ばれた存在だがその戦いによる負傷で引退することになった。イリア法帝ほうおうと呼ばれる人類側の最高戦力として数えられている。


 「うん。魔界に行く前に一度会っておきたいんだ。」


 「どうだろうな……。バンリュー様はもう冒険者を引退なさってどこかで隠居なさってるらしいし……。イリア様はまだ冒険者として活動してらっしゃるようだから一定の場所にはいらっしゃらないだろ。」


 そうか……。それならゆっくり探していくか。セリアに聞けば知っているかもしれないしな。リンシャさんはスリドさんのところに要るだろうから……まずはグラセラ大陸に行くか。その道中でセリア達にお土産でも買っていこう。………王様ともなると並の物じゃダメだろうな。


 「ところで、兄ちゃんは剣士なのか?さっきは……まるで魔術師みたいだったけどよ。」


 おっさんはおれが携えている刀、“鬼火舞おにのほのまい”を見てそう言った。


 「剣も使えるってだけだな。……カッコいいだろ?相棒も剣士なもんだしよ。」


 「面白い理由だなぁ!」


 おっさんは笑いながらそう言った。変な理由かも知れないけれど、おれからすれば剣士に対してそれなりの憧れがあったからな。……何よりセリアの剣術は美しかったから。真似したくもなる。

 日が暮れてきた。街に着くのは明日になるかな。おっさんが料理を作ってくれるようなので、おれはお気持ち程度に食材を渡して待機した。

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