勇者は気付くだろうか—俺はただ影に徹する—

ふるーる

第1話side勇者

眩い光が収まった時、俺は巨大な玉座の間に立っていた。


石造りの柱、兵士たちの視線、煌びやかな装飾。

――異世界。これはどう見ても異世界だ。


「異界の勇者よ」


王が重々しい声で告げた。


「この世界は魔王により滅びの危機にある。どうか、我らを救う力を貸してほしい」


勇者? 魔王?

ゲームみたいだ……と言いかけて飲み込む。


「ちょ、ちょっと待ってください。俺は普通の学生で――」


戸惑いと混乱が胸を締めつけた。

ここが夢なら醒めてくれ。

でも、足の震えが現実だと告げてくる。


王は続けて話した。


「無理を承知で頼んでいる。だが勇者として召喚された者には、世界を救う資質が宿るという。その力は、我らでは扱えぬ力だ」


俺にしかできない。

そう言われるのは重い。怖い。


でも……

その言葉の先にあるものを、俺は気にしてしまっていた。


王の隣に立つ三人の女性――

息をするのすら忘れるほど美しい。


けれど俺は知らない。

彼女たちが「勇者と親しくなれ」という各国の密命を受けていることなど。

俺にはただ、眩しいくらいの英雄的な女性たちに見えるだけだ。


「エリオス様」


女神像のような女性が、一歩近づいてくる。

その瞳は真っ直ぐで、優しい。


「あなたが来てくれて、希望が生まれました。

私たちが全力で支えます。だから、一緒に戦いましょう」


その言葉に、胸の奥で何かが溶ける感じがした。


逃げたいけど……

見捨てられない。


「……俺で良ければ、やります。やらせてください」


気づけば、そう答えていた。


王が表情を緩める。


「感謝する、勇者エリオス。明日より三名の仲間が、お前を支える」


三人の女性が俺の前に並ぶ。


聖女エルミア。

斥候リュミナ。

騎士セレスタ。


全員、信じられないほど綺麗で、強そうで、それでいて俺に微笑んでくれる。


……やばい、緊張で心臓が爆発しそう。


そんな俺の動揺をよそに、王は厳かな声で告げる。


「勇者よ、魔王を討ち、この世界を救ってくれ」


深呼吸して、俺は頷いた。


こうして、俺の新しい人生が始まった。


――ただ、天井付近にいた“黒い影”だけが気になった。

一瞬だけ、誰かがこちらを見ていた気がする。


でもすぐに視線は途切れた。


誰だったのか。

気のせいなのか。


この時の俺はまだ知らない。

その影が後に、三人の女性の心を奪う男だということを。




****

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