第3話 酔狂な喧嘩と、エンターテインメント

 リヤス鍛錬場。

「話を伺い解った、今回の件はこちらに非がある。申し訳ない。店にも、改めて謝罪にいこう」

 深々と頭を下げる、リヤスの団長。

​(へぇ〜、謝るか)

​ リヤス鍛錬場に到着し、フクロコースかと思っていたらダミアーノ団長とやらが、「双方から話を聞く」と言い出して、双方からの話を聞いた結果、「謝罪」だ。

 どうやら、ヤツ等は正隊員ではなく、準隊員らしい。

​ ただ、周りのヤツ等で、トップが頭を下げるのが気に入らないらしく、

「団長、我々の面子が!」

「リヤスの看板に」

「看板の重みが」

 と騒いでいる。

​(看板? 面子? 重みだと……)

​ 副団長のロドリゴだったか? その三人を叱責している。

「オオトモさん、団長の申した通りだ」

 とさらに頭を下げてくるロドリゴを止める。

​「俺には、面子だの、看板だの、その重みだの解んねぇな。さっきのだって酔ったならず者と、八つ当たり先を探してたチンピラの喧嘩……喧嘩以下のじゃれ合いだ。そのチンピラにさ、教えてくれないか? 面子と、看板の重みってヤツを」

​ 周囲のヤツ等が、殺気を込め騒ぎ出す。

​「静まれ」

​ それだけだ、たった一言。

 怒鳴るでも、別段大声でもない一言に、周囲が静まりかえる。

​「オオトモさんは、どうしたい?」

「俺な、迷子だからよ。頭で覚えるのは無理だ、身体で教えてくれよ」

​「迷子か……。それでは、先の3名と酔っ払いのならず者だったか、そのひとりを加えた四名と、一対一の模擬戦というのはどうだ?」

「解りやすくて良いな。でもその四人で解らない時は、団長さん教えてくれ。良いだろ?」

「フッ、解った。その時は私が相手しよう」

「それではバイミ、ウーサン、ラッツ、イニッジオ、それぞれに合った模造具を持って前へ。ここからはロドリゴが取り仕切る!」

​      ◆

​「ハッ! このロドリゴが審判を務める。ルールは一対一、武器は模造具を使用。戦いの継続不能と判断した場合、並びに負けを認めた場合、勝敗を決する。良いな!」

​「オオトモさん、模造具は?」

 俺はスッと拳を突き出す。

「俺はずっとこの拳で生きて来た、これがあれば良い」

「しかし、あくまでも模擬戦ですから、最低限の体裁を整える必要ですので……」

「じゃあ、この木製の短剣で良いや」

​ 壁に掛けてある木製の短剣を取り、懐にしまう。

​      ◆

​「ではウーサン前へ!」

​ 身長2メートル超えのデカい体躯、自身以上の戦斧を持った男が前に出る。

​「始め!」

​ ウーサンが戦斧を左上段に構え叩きつける。

 左側にスッと躱す。

 ドゴッン! 戦斧が地面を打つ音と舞い上がる土煙。

 馬鹿力だね、コイツ。

​ また、左上段に構え振り下ろす。

 左側に躱す。

 横薙ぎに払う。

 下がり躱す。

​ おっ、焦り出したな?

​ 右上段に構え振り下ろす。

 右側に躱す。

 横薙ぎに払う。

 下がり躱す。

​ 戦斧を振るう度に上がる土煙。

 威力は相当だ、相当だが「力頼み」だな。

​ ワザと間合いに入る。

 右上段に構え振り下ろす。

 右側に躱わし、戦斧にそっと手を添え軌道を変える。

 ドゴッン! 地面を叩いた戦斧の柄を脇に挟み、微笑む。

​ ウーサンの顔が真っ赤になり、ウオォォゥ! と咆哮一発、俺ごと上段に構える。

​ 釣れた!

​ その力を利用し、飛び上がる。

 ウーサン、マヌケツラだな?

 左足で、ウーサンの膝を使い蹴り上がる。

 渾身の右膝を顔面にインパクト!

 以前に見たプロレス技の応用だ。

​ 決まったな。

​ ウーサンが顔を後ろに反らし倒れて行く。

 ドーン……動かねぇな。

​「それまで! 勝者オオトモ」

​ プロレス技か……笑みが溢れる。

 テメェ等の面子、エンターテインメントで相手してやろうじゃあないか? 酔狂で良いな。

​      ◆

​「ラッツ前へ、始め!」

​ 今度は両手持ちの長剣使いか。

 左八相に構え、袈裟斬り。

 僅かに上体を反らし躱す。

 剣が鼻先を通り過ぎる。

 剣を引き、突き出す。

 後ろに下がり躱す。

 また、左八相に構える。

​ はぁ、ため息が出る。ダメだ、全然ダメ話にならん。

​「大型犬の散歩みたいに振り回されてるぞ?」

「なっ、舐めるな!」

​ 意地になり長剣を振り回し斬りつけてくる。

 駄目な大人だなコイツ。

 人の忠告は素直に聞けないとな、碌な大人になれねぇよ?

​「頑張れ、酔っ払いの社交ダンスみたいだな?」

​ グッと殺気満載で睨んでくる。

 ググッと突きを出す構えになる。

​ 釣れた!

​ 突きを繰り出す。

 それを左前に動きながら躱す。

 長剣を握る両手を拳で殴る。

 痛みに顔を歪め、長剣を落とす。

 右手のひらでラッツの顔を後ろに押す。

 上体がそれ、空いた距離を使い、右腕の剛腕ラリアートをブチ込む。

​ ラッツが宙返りのように回転し、顔面から地面に落ちる。

 動かねぇな?

​「勝者オオトモ!」

 勝者宣言と共に右手を突き上げる。

​      ◆

​「バイミ前へ、始め!」

​ 今度は片手剣の二刀流か。

 上体を俺の腰辺りまで屈め、両手に剣を構え突っ込んでくる。

 右からの横薙ぎと左からの横薙ぎ。

 おっ! 速いな。

 下がりながら躱す。

 三人の中じゃ速度はピカイチだ。

​ 今度は突きの連打かよ!

 左右に僅かに動き躱す。

 バイミが下がり距離を取る。

 深追いしないタイプか。

​ その場で、軽くジャンプを数回している。

 トーン、トーン、トーン。

 あぁ? これか?

​ また、低い体勢からの両手剣による連撃が襲ってくる。

 上体を、身体全体を前後左右に動かし躱す。

 バイミが距離を取り、トーン、トーン、トーン。

​ やっぱりな、じゃ両腕をやや上に挙げ構える。

 空いた腹に連撃が迫る。

​ 釣れた!

​ 横薙ぎの剣がスカッ、空を切る。

 その頃にはバイミを飛び越えるように前方に飛びあがり、バイミの頭に手をつき、後ろに着地。

 慌て動きを止めたバイミの腰を、後ろから抱きしめ強引に持ち上げ後ろに落とす。

 まぁ、バックドロップだな。

​ ホールドを離し立ち上がるが、バイミは頭と両膝を地面に着いて動かない。

「器用だな、リズムが同じだから、そこも器用にな」

「しっ、勝負あり!」

​      ◆

​「イニッジオ前へ、始め!」

​ 槍使いか……ヤクザ✕プロレス技ならアレだな。

 シュッ、シュッ、シュッ。

 リーチを有効に使った突きの連撃。

 上体を動かし躱す。

 今度は横薙ぎ。

 下がり躱す。

 チッ、このリーチ差は面倒だ。

​ コイツ、笑みをこぼしやがった!

 舐めんなよ!

​ 突きを躱し、リーチ差を埋める為に懐に飛び込もうと試みるが、手の中で槍の柄を引き、リーチを短くし突きを放ってくる。

 慌てて、横に飛び退く。

 また、笑みをこぼしやがる。

 舐めんなボケが!

 突きを躱し、タックルを試みるも、結果は同じだ。横に転がり避ける。

​「どうした? さっきまでの威勢は?」

 周囲のヤツ等も、数人笑い声を挙げる。

「クッソが、舐めやがって」

​ 腹立たし紛れに地面を蹴る。

 ヤツがまた、突きを繰り出す。

 俺は躱しながらヤツに殴り掛かる。

​ しかし、今度は突きで迎撃するのではなく、突きを引いたタイミングで槍を回転させ、斬り上げて来た。

 予想外な攻撃に焦る。

 してやったりと笑みを浮かべるイニッジオ。

​ スカッ!

​ 釣れた、ヤツの槍が空を斬る。

 斬り上げた槍を掴む手を、左足のつま先で蹴り飛ばす。

 槍を手放し、槍が飛んでいく。

 左足を上げて残身を取り、

「槍なら俺にもあるさ」

​ そのまま身体を回転させ、右足の裏を顔に叩き込む。

 ヤクザキック、喧嘩キックだな。

​「リーチに頼りすぎ、狙いが見え見え、悪いが俺は単細胞じゃねぇよ」

​ その場が静まりかえる。

 俺はロドリゴに「おい」。

「あっ! 勝者オオトモ」

​ いよいよ団長戦だぁ。

 さあ、団長教えてもらいましょうか。

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