蒼き星の涯なき輝き
夢路 桜花
第0話〈対峙〉
常と比べれば不自然なほどに、人の気配が希薄な公園の一角。
「――物騒だなあ、おい」
呆れたような、しかしどこか面白がっているような気配も覗く声が空気を揺らす。
声の主は、灰色のシャツと黒のスラックスを身に纏う、黒髪黒目の青年。右手を前へと無造作に伸ばした姿勢で立つその顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。
彼の背後では、長い金髪に碧眼の少女と、緩くウェーブした茶髪に鳶色の瞳の少女、二つの人影が身を寄せ合うようにして地面にへたり込んでいた。
そして、青年が掌を向ける形で右手を伸ばす先。十数メートル離れた地点には、青年と対峙するようにして漆黒のローブに身を包んだ男が立っている。
ファンタジー小説に出てくるような、怪しい魔術師の風体を想像すれば間違いない。深く被ったローブは相手の表情を覆い隠していたが、相対する青年には相手の感情が手に取るように感じ取れていた。
驚愕、警戒、そして敵意。
対して、背後でへたり込む二人の少女から感じるのは、恐怖、緊張、そして困惑。
――予想通りだな。
すべては彼の想定通り。日常生活ではまず経験することのない、張り詰めた空気が支配する空間。その只中で、それらを正しく認識しながら、しかし青年だけが他の三人とは全く異なった雰囲気を纏っていた。
まるで、散歩の途中でふと立ち止まりでもしたかのように。平然と、泰然と、余裕に満ちた態度で腰を屈める。
右手を伸ばし足元から拾い上げたのは、何の変哲もない木の棒だった。
世の多くの男子が、幼い頃そうしたことがあるように、右手に握った木の棒を刀剣に見立てるようにして、何度か振って調子を確かめる。
「十分だな」
納得したように独り言ち、彼はさながら右手一本で刀を構えるように、流麗な所作で木の棒を構えた。
相も変わらず緊張感のようなものは微塵もなく、顔に淡い笑みを浮かべたまま、自然体で立っている。
「ッ……!」
だが、対峙する黒いローブの人影は、確実に何かを感じ取っていた。まるでとてつもない脅威と遭遇したかのように身を強張らせ、傍目から見て分かるほどに警戒心を跳ね上げる。
その様子を深い黒の瞳で見つめ、青年は世間話に興じるかのような口調で言った。
「どうやら察しは悪くなさそうだ。それじゃあ、覚悟は良いか?」
不敵な笑みで、告げる。
「これからお前を、ぶちのめす」
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