13
「今度はなんだ!?」
周囲に反響する悲鳴は独特のエコーが効き、まるで未知の生物の咆哮にも感じる。
「……二人が危ない」「あ、ちょっと!?」
木村は無心になって駆け出した。
「待ってぇ、もう置いてかないでよぉ!」
吉野が立ち上がり、フラつきながら後を追う。段棟田も力無く走り出した。
「おいコラ君達はダメ、ここにいなさい!……あぁまったくもう!」
竜水も三人の後を追う。もはやカオスだ。
しきり無しに続く下品な物音が、フロア一杯に木霊している。
「よし、三階には居ない。次はいよいよ四階かっ」
柿崎は破壊した本棚の残骸と散乱した本を蹴飛ばした。
未来はというと、部屋の欠けた掛け鏡で髪の毛チェックにご執心だ。「ちょっとぉ未来ちゃん、俺は君の召使い?もう少し動いてくれないかなぁ」不満げに額の汗を払う。
「だって。仕事はお洒落にこなさないとかっこ悪いでしょ。ダサいプロなんてどこの世界にも居ないの。柿ピーもそんな血と汗に塗れてたら、めっちゃかっこ悪い」
「いや、あのね未来ちゃん。むしろコレは仕事をした事によって付着した汚れであって、不注意で付いた汚れの類とはまた違う訳で、これは勲章として称賛されるべきであって」
「ん~、知らない。そういう事は竜司に言って」
ふいに戸口に影が差す。「呼ばれた気がしたが。この階に居るのはこれで全員だな」
「うん。ここにはもう誰も」
未来は傍にあった冷蔵庫に腰掛け、足を泳がせる。
「さてと。あとは四か……い?」一斉にスマホのバイブが作動した。「何?まさかトラブル?」
出所は庭番の達也だ。この担当からはまず朗報が届く事がない。その内容を見て、三人の表情は不安→失望→驚愕→混乱のフローチャートを辿った。「……人が……居たの」未来の視線は二人の間を泳ぐ。
「り、竜司君、なんだいコレは?外には二人しかいないんじゃなかったのか!?」
竜司は俯いたまま反応しない。「なあ竜司君!後から人数増えるなんて」「違う」
ハッキリと否定する。
「違うって?どういう意味さ」「こいつら、後から来た訳じゃない」
二人の目が皿になる。
「コイツは、最初から居たんだ」
「え。待って竜司、どーいう事?」
「俺達は、この班の班員全員を囲み込んだ『つもり』になっていただけだった。でも、その網の外に一匹だけ居た……居やがった、番犬が」
「そいつが逆に私達を見張ってたの?」「逐一テレビ局に報告してたっていうのか!?」
「監視しているつもりが、逆に監視されていた……不覚だ……ッ」
口の端を思い切り歪めた。「俺のミスだ」ジーザスクライスト。投光車に気を取られ、もう一台に注意を払わなかった。なぜ全ての車から運転手が下りたか確認しなかったのか、返す返すも痛恨の極みだ。
「ねえどうするの?」三人が立ち往生する中、竜司に着信が入る。達也からだ。
「達也メール見たぞ、そっちはどうだ大丈夫か」
📶 うん、その……辻方君がね、ちょっと胸を打っちゃった。でも運転は出来るらしいから安心して。翼君と修君に手伝ってもらってみんなの自転車をトラックに積んだから、みんなは空いてるバスに乗って。早く出てきてね、でも焦りは禁物だよ 📶
電話はすぐに切れた。はっきり言って向こうの状況はわからないが、行けば百聞は一見。「……よし、脱出しよう」三人は凶器を捨てて駆け出した。フルコンボは達成できないが、ノーミスクリアの方がベター。当初の筋書きを曲げる事になるが背に腹は代えられない。
木村が廊下を右折すると、薄暗闇の中、誰かがこちらに向かって歩いて来る。
反射的に立ち止まり、後ろの吉野、段棟田がカルガモの子のように追突をこく。
「いったたたぁ~。もう、何?」
吉野の目がこちらに近付く若い女の輪郭を捉えた。手には壺型の花瓶を携えている。
「あぁぁぁぁああ、でで、で出た、お化けぇぇぇぇええ!」
「誰だお前!こっち来るな!なんでそんな物持ってる!」
木村が怒声を張り上げて牽制を図るも、相手はゆらゆらとして立ち止まる気配が無い。
「へへヘ、ミユキちゃんだよ~」女は不敵な笑みを浮かべたまま、咬み付く隙を探っている。
「気を付けて、背中を向けちゃダメですよ」いつの間にか追いついた竜水が警告する。ところが、後ろからも誰か走って来る気配がする。目を凝らすと、現れたのは見知らぬ男女だった。
「こんな所に。よくも手こずらせやがったなこの野郎」
恨めし気に毒づき、ペーパーナイフを取り出すと間合いを詰めてくる。
アイドル二人が悲鳴を上げて木村に抱き付いた。「な、なんのこれしきッ」
前方に刃物男、背後には鈍器女。四面楚歌、孤立無援、孤城落日、絶体絶命――
「下手に動くな、下手に騒ぐな……」
竜水は相手の動きを見ながら、何処か隙はないかと神経を極限まで張り詰めた。すぐにある事に気が付く。――風穴が空いている。現在、四人が追い込まれているのはT字路だ。敵は前後に位置する。つまり右側がガラ空きだ。これを逃したら、死ぬ……彼は考えている事を悟られないよう相手を凝視したまま、ゆっくりと後退り、機会を窺う。もうすぐ――
「今だ行け!」三人を右側に押し出すと、自らも弾かれたように駆け出した。
懸けだった。間違った。前にいた木村と段棟田が激しく転倒する、その様をスローモーションでじっくりと見せつけられるハメになる。
「っくそぉ。くそ、くそっ、くそっ、なんだよっ!」
もう、勘弁してほしい。まだ駄目なのか。まだ許されないのか。まだ足りないのか。吉野からライトを奪って二人を照らす、二人の足に何かくっついている。
「……絶望だ。これは」
狩猟用具のトラバサミが鋭い刃を立てて容赦無く足の肉に喰い込んでいる。
肌が裂け、とめどない流血が床に毒々しい水溜まりを形作っていく。
「ひぎいいぃぃぃぃ痛い痛いいぃぃぃ……」二人は無様にも芋虫のようにその場で体をくねらせる事しか出来ない。「動かないで、今外し……」五㎏のダンベルが二つずつ、ダクトテープで括り付けられている。「何じゃこりゃ。おい、しっかりしろ!」
トラバサミを持ち上げたり口を開こうとしてみたが、外し方が分からない。
もはや恐怖を超越した新境地、無に近い狂気というものを鮮烈に深層心理に刻まれた。
「竜水先生、七海ちゃん、いいからはよ逃げて!」
この期に及んで尚、木村は二人を逃がそうとする。
「しかし、そうしたら木村さんとこの子が」「玲ちゃんは僕に任せて、いいから行って!」
彼の気迫に気圧され、吉野を守る事が先決と気付かされる。
「木村さん、後は頼みますよ」「玲ちゃんゴメンね……」
吉野は泣いていた。竜水も二人を助けてやれなかった無力感に唇を強く噛み締める。
一度下を向き、数拍後に再び前方を睨んだ目には光が宿っていた。
二人は走り出す。液体のように纏わりつく闇を掻き分け、ひた走る。
ここがどこかなんて分からない。もう、どっちに行けばいいのか、敵は追ってきているのか、脚が動いているかどうかすら分からなかった。ほんの数時間前まで普通の収録風景だったのに……あの時の直感を信じて、少しでも警戒しておくべきだった。
馬鹿、今更何を。
「生き残らないと、死ぬ!!」
死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――――
「
採血室を過ぎ、点滴室を過ぎ、トイレを過ぎ、角を曲がって角を曲がっ
――ドスッ
「あれっ」
脇腹の強い違和感。棒のような物で、グイと強く押されたような感覚。
立ち止まって手をやる。何か、硬い棒のような物が生えている。
「 あぁ あぁぁぁ あ 」
コントのように、右脇腹に鉄製の杭が突き立っている。
頭が輪っかになっていて、地面に刺してロープを通して柵を作るアレだ。
「@¥*+$〒%∇◎□☆!!」吉野が何か言っている。
「七海 ちゃん 逃げろ 」
彼は膝から崩れ落ちた。抗おうとするが、意識が遠のく。強烈な眠気が襲ってきた。なに、走り過ぎて疲れただけだ。少し休もう。「御免」そのまま目を閉じた。
「せ……イギャア、先生!!ギャア、ヒャアアアアアアアアせんせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
一人取り残された吉野は、その場にへたり込んだ。
「¥@!$☆◎◇∥??」
もう、自分以外に誰も居ない。闇の中、ひとりぼっちになってしまった。
「みんな、居なくなっちゃった……私、ひとりぼっち……ひとりぼっち……」
薄い唇を戦慄かせ、意識もせぬうち取り留めも無い譫言を繰り返していた。
涙と涎と小便を垂れ流して放言する姿は、もはや廃人に等しき様相だ。
「やっほう」仲間を見つけたのか、闇が彼女に囁き掛ける。「一人じゃないよ」
「一人……じゃない……?」
優しく、温かい声が鼓膜を舐める。彼女はゆっくりと振り向く。
「ね、ほら。僕がいるから。さぁ立って。みんなの所に行こうよ」
「うん……みんなと一緒がいい。連れてって、みんなの所」
ショックのあまり気がふれていた。顔はヘラヘラと笑っているが、それとは対照的に手足や唇は小刻みに震えて、生まれたての小鹿のように他愛無い。「じゃあ、連れていってあげるね」
赤黒く染まった手を伸ばし、彼女の手を引いて立ち上がらせる。初めて掴まり立ちをした赤ん坊のような脆弱な彼女を前に、紳士然とした闇が正体を現す。
「魔法をかけよう。ジャーン」
柿崎は鉄の杭を掲げ、彼女の目の高さで振って見せた。
「ほら、これ、魔法の杖だよ。先っぽ見てて」「うわぁすごい、魔ほ――」左目に打ち込む。マルシェ&ファンデヴ!フェンシングの要領で一歩踏み出し、全力で右腕を突き出した――彼女は凍ったように動きを止めたかと思うと、血の涙を流し満面の笑みを湛えた。
「ふんっ」
柿崎は雑作なく杭を引き抜き、リアクションを観察する。「なんで……私が……」そんなような事を囀り、後ろ向きに堕ちていった。「……って、それだけか~い」
仰け反ってから、深呼吸をした。ミッションコンプリートしたのだが、早くしないとヤバイ。既に次の問題が浮上している!どうやら少々時間を掛け過ぎたようだ。
背後から木村と段棟田の断末魔の悲鳴が上がり、
「柿崎、終わったぞ。これで全員だ」竜司と未来、美幸、寺島が駆けつける。
「みんなメール見たろ?早くしなきゃ」
病棟端の螺旋階段。プレハブ住宅のような簡素なドアノブに鎖が幾重にも巻かれ、南京錠がぶら下がっている。竜司が予め細工をしておいたのだ。彼は鍵を取り出して南京錠を外して鎖を解くと、一息に開け放った。「さあ、逃げよう」生ぬるい夜風の中、螺旋階段を駆け下りた。
「来たぞぉ、早くせぇ!」
翼が病棟を指差した。いつ警察が来るか気が気ではない修、辻方、達也は瞬時に振り向く。みるみるうちに五人が息せき切って到着する。「あれ、その車動かせたんだ」と柿崎が驚いた様子でバスを指差す。達也が「緊急事態だから、ボクが裏技を使って動かしたんだよぉ」と言っているのでよく見ると、運転席側の窓が割られている。
「なんだよ、裏技って窓割るだけかよ。だったら俺だって……」
「それだけじゃないよ。配線も少し弄ったから、キーが無くてもエンジンがかかるんだ」
「わお。さすが職人」
傍で見ていた竜司がホッとしたようにドアに手を掛けた。その途端、空気がビンッと張り詰める。全員が聞いたのは、耳を聾する猛々しいサイレン音。
「来たぞおおおぉぉ!」
一拍して修の絶叫。美幸と未来は抱き合ったまま立ち尽くした。翼が何か喚き、寺島と柿崎も目の色が変わる。その中でただ一人、竜司だけはまたしても俯いたまま黙りこくった。
――まずい。プラン変更のし過ぎで、当初のように林から逃げる事は出来なくなった。
「最悪の事態、起きちまったぞ!」「対策は!?」「自分で考えなきゃ!」「どうする!?」
取り乱した修が肩と腕に縋ってきた。反射的に振りほどく。
「おい、おい。お前らそんなに取り乱すな。大丈夫だから。絶対に打破できる、容易く鳴き喚くな、とりあえず落ち着けって!」
さぁ考えろ、考えろ。今出来るベスト、今出来る最善策は何だ。
ふと顔を上げると、達也のトラックがある。気が散って今まで気付けずにいたが、その手前の車に見覚えがある。なぜか追突しているのは解せないが、エンジンが動いているという事は使えるのだろう。木々の間から、赤い光が漏れ始めた。あの細い道 ――その瞬間、脳裏に強い電流が閃く。
*
無線機がザラついた
📣 ――警戒中の各局へ―― 📣
言い終わるのを待たずマイクをひったくる。
「おい、一○七以外に空きはないんか。どうぞ」
📣 現在別件にて対応中の為、一○七号車以外は手配出来ません、どうぞ 📣
思わず舌打ちが漏れる。「分かった。以上」やり取りは僅か十秒足らずで終わってしまった。松井は不満げにマイクを置く。致し方ない。薄々分かっていた事だ。
「なぁ。この村、噂と事実とどっちが先に出たと思う?」
「ニワトリが先か卵が先か、みたいですね。自分は、噂が先だっていると思いますよ」
「そうか。儂もそう思うな。根拠とか無いけどな、
松井は捜査ファイルの入ったUSBメモリをノートPCに差し込み、〈住人からの情報〉と題されたファイルを開いた。
「えーっと。御神山総合病院、御神山総合病院……これか……五月五日土曜日午前九時四十分ごろ、若い長身の男が御神山総合病院に続く道に入っていくのを近くの米穀店店主が目撃……あまり見ない顔だから良く覚えている、と」
「それって、地取り(聞き込み調査)のレポですね」
「そう。次の日の夕方四時半頃に三、四人の男女が病院へ向かっていくのも目撃されとる」
「やっぱり。松井さん、さっき入った通報のテープ、もう一度流してもらえますか」
中谷は不思議な要求をした。「あぁ、これか?流すぞ」
📶 はい、こちらは一一〇番です。事件ですか?事故ですか? 📶
最初に流れたのは女性オペレータの声だった。
📶 もしもし、警察ですか? 📶
通報者は、慌てた様子の男性。
📶 はい、そうです 📶
📶私、KTS(Kinki/Television/Station)の者です。あのですね、我々の局の現地取材班がですね、四日市の風死見村で収録をしている最中なんですけど、どうやらウチのスタッフがロケ地の廃病院で若者数人に襲われたらしくて、送られた映像を確認してみたんですが、確かに高校の制服を着た女の子が写っていたんです 📶
📶 順を追って説明願います。その高校生らしき人物は一人ですか? 📶
📶 いいえ、一人はそれらしい格好をしていたんですけど、他の人は普通の服装でした。でも見た目には年齢は同じ位に見えます 📶
――ここで、その映像を見たくて堪らなくなったが、暫しの我慢。
📶 相手の人数は大体何人くらいか分かりますか?分かる範囲で結構です 📶
📶 そうですね、同じ人が何度か通るんですけど、大体四人か五人くらいです 📶
📶 分かりました。他に、何か手掛かりになる事があれば教えて下さい 📶
📶 はい、私は編集室で映像を見ていたんですが、時折、集音機が大きな物音や悲鳴を拾ってます。あと何人かのスタッフが他の者に抱えて運ばれていくのが写っています 📶
📶 カメラの方は撮影を続けられていたのですか? 📶
📶 いいえ、カメラは床に転がされていて、そこに写り込んだ映像しか見られません 📶
📶 分かりました 📶 📶 あ、あの! 📶
通報者は慌ててがっついてきた。
📶 どうされましたか? 📶
📶 あの、通信係の者が車を盗られたって言うものですから後を追わせたら、急に連絡が取れなくなったんです。彼が心配ですから、一番に彼を捜して下さいお願いします! 📶
📶 はい、では、その時のこ 📶
「「車を盗られた?」」
二人は顔を見合わせる。
「やれやれ。中谷よ、コイツ曲者だぜ。なかなかやりよる」
「小賢しいですねえ……すぐに離れちゃいますよ、ここから」
「この連中、自分達が見られとる事が分かっとるぞ」つまり警察に対し自分達の尻尾が掴めるか?と挑発しているのだ。「どうしますか?このまま行っていいんですか?」
「ああ、とりあえず現場や。面白くなってきそうやの。よっしゃ正面から行ったるか」
松井は居住まいを正した。前照灯が拓く前方に、柵に囲まれた不気味な公会堂が浮かび上がる。柵の向こうはストーンヘンジのように石灯籠が円を描いて立ち並んでいる。左折。
「しかし、何だぁ?ただでさえ気味悪い村やのに、この通りと来たらもう」
「昔に栄華を極めた街でも、落ちぶれると見る影が無いですね。人も同じですけど」
中谷が彼らしくない皮肉を口にし、松井は少し驚いたように唇を舐めた。
何気ない一言にも関わらず、不思議と深い含蓄を感じた。
二台は落ち葉と雑草に埋もれた獣道を登っていく。レガシィは4WDなので、こういう道は得意だ。瞬間的に赤く切り出される林の空間は日の光も届かぬ深海のようで、ぐろの奥深くに何か不気味なモノが佇んでいるような錯覚に陥る。
「来た、来た、来やがった」
全員の見詰める先、木々の間から黄色と赤色の光が差し込む。
「もう少し、もう少し――」
達也はレバーの先のボタンを強く押す。やがて目映い発光体が射程圏内に現れる。
「――今やっ!」
ブレーキを外すと、投光車から飛び下りた。着地に失敗し前転で衝撃を和らげる。
「「「おらぁ!!」」」惰力で動き始めた車体を、修、寺島、翼、柿崎ら男性陣が力一杯に押し出す。始めはゆっくりとした速度も坂道の後押しにより、すぐに勢いをつけて疾走する。
「急いで、ほら、早く!」達也は砂を払う暇もなく、皆をロケバスに詰め込んだ。八人乗りの車内はたちまち満員御礼となる。「いくぞ、チャンスは今しかない!取っ付け取っ付け!」
バスを先に行かせると、慌ただしく地獄の廃病院を後にした。
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