第4話 未知なる、異能の覚醒
私は、黒い靄のかかる薄暗い空の下にいた。 足下には、海が広がっている。 私は、この風景があの夢の続きだとすぐに分かった。
それと同時に、自分がここに来る前の記憶が蘇る。 たしか、魔獣に体を握りしめられた所までは覚えている。
私は、そのまま魔獣に絞め殺されてしまい、この場所に来たのではないか……と考える。
とりあえず、私は周りを見渡す。 以前の夢で見た、大きな影は見当たらない。
私は、ここに止まって居ても仕方がないと考え、歩き出そうとすると頭に痛みが走る。 その痛みは、強さを増していき、思わず額を抑える。
私は、痛みを堪えながら眼を開けると、遠くに黒い影が見える。 その影は、私の方に近づく。
あの影は、夢で現れた奴だと直感する。
影との距離が近くなるのと、それに比例して頭痛が酷くなっていきく。
「流石に……この痛みはキツイわ……ね」
まるで、頭が割れる様な痛みに私は、まともに立っていられなくなり片膝をついてしまう。
更に痛みは酷くなり眼を閉じる。 体中から、冷たくジトっとした嫌な汗が流れ出す。
「……くっ!」
私は、再び眼を開けると、奴が目の前まで迫っている。 その、シルエットを見た私は、ある生物の名が頭に浮かぶ。
「……!? 大きな……蛇?」
その大蛇は、赤い目に鉄か岩石の様な体。 腕にあたる部分は、ヒレか翼か分からないが大きく広げており、見るかに私の知る蛇とは違う生物だ。
頭痛で、まともに動けない私は、この大蛇に食べられると考えたが、特に何もしてこない。
そいつは、ただ黙って私を見ているだけだ。
「ハァ……ハァ……。 何よ……何か私に、用があるんでしょ?」
私の言葉に反応したのか、大蛇は頭を下げて眼前まで迫る。 やつの鼻息が私の頬を撫で、髪がなびく。
《――私に、触れなさい――》
「!?」
私に何かの声が響く。 否、声というより頭に直接語りかける感じだ。
《――死にたくないでしょ? 私に、触れなさい――》
どうやらこいつは、私に触れて欲しい様だ。 だけど、死ぬとはどう言う事なのだろうか?
私は、まだ生きているってこと? そして、今まさに死に向かっている?
《――あの獣に勝つ力が欲しければ――友を助けたいなら、早くこの私に触れなさい――》
獣……魔獣の事だろう。 この声を信じるなら、まだ私は死んでいないのだろうか? 友とは、クロエの事を指しているのだろう。
だが、触れるだけで本当に魔獣に勝てるのだろうか? 信じられないが、このまま死ぬのなら、この声に従っても良いかもしれない。
「はぁ……はぁ。 本当に……助かるなら、触って……やろうじゃない」
私は、恐る恐る手を伸ばして大蛇の口元に触れる。
「⁉」
その瞬間、視界が真っ白になっていき、体が溶けていく様な感覚になる。 灰色の水面と、私の体が1つになっているかの様だ。
♢
私は、意識が戻る。 だが、目覚めたばかりなのか意識が朦朧として、私なのに私では無い様な感覚がある。
そんな事を考えていると、前方が騒がしく、私は顔を上げて見るとそこには、魔獣が吠えていた。
よく見ると、魔獣の腕が肘から先が無くなっており、血が流れ出ている。 鮮血がまるで雨のように降り注ぎ、辺りの地面が赤く汚れている。
(あの魔獣……何で腕が、無いのかしら? それよりも)
私は、手を魔獣に向けると、魔獣の足下に漆黒の靄が生まれる。 そこから、鋭く槍の様なモノが何本も現れて、魔獣を貫いた。
黒い霧は、自分のイメージした通りにいる動き形を変える。
「これは……私が、操っているの?」
魔法が使えないはずである私が、目の前で黒い霧を操っている。
そんな、現実離れの現象が今、起こっている。
「……それにしても、この力」
仮に、この力が魔法だとしたら、これは私の知る魔法とは別物だ。
だが、今は考えている場合では無い。 今は、魔獣を屠るのが優先だ。
私は、傷を再生する魔獣を見つめる。
局所的な攻撃では、再生されてしまう。 なら、再生が追いつかない様に全体を攻撃すれば良い。
そう考え前方に手を掲げると、私を中心に辺り一帯の地面が黒い霧の覆われ、それが魔獣の足から徐々に飲み込んでいく。
魔獣も、激しく霧に抵抗するが、上手く動けない様だ。
私は、何故かこの黒い霧の扱い方を知っている。
使った事が無い筈だが、身体が覚えているかの様だ。
霧は、最終的に魔獣の全てを飲み込み、辺りが静粛に包まれる。
「……終わった……わね」
そして、周囲の地面に広がった黒霧を消そうとした時に突然、頭が割れる様な痛みが走る。
「! が! がぁ!」
私は、膝をついて頭を抱える。 同時に黒霧は拡大し、その影響か周囲の木々が枯れていく。
青々としていた葉は、茶色く変色していき、枯葉となり散って行く。
私は、どうにか黒霧を制御しようとするが上手く扱えない。 それでも、何としようともがく。
「このままじゃ……!?」
私は、枝に掛かったクロエの方を見る。 枯れ枝が曲がり、いつ折れてもおかしくない状況だ。 もし、あのまま黒霧に落ちれば、どうなるのかは分からない。 周りの状態を見るに、良い結果になるとは考えられない。
「く……クソ! 治まりなさいよ!」
だが、霧は全く晴れない。 それどころか、範囲が広がっている。
ついに、彼女を支えていた枝は、音を立てて折れてしまう。
「!」
クロエは、そのまま黒霧の中に落ちていった。 このままでは、最悪な未来が私の頭をよぎる。
「まって! やめろ! 治まれ! 鎮まれよ!」
私は、この黒霧に対して恐怖ではなく、怒りを生じる。
そして、この怒りはそれを制御出来ない自分自身に向く。
そして一瞬、あの蛇の姿が浮かぶ。
「止まれぇぇぇ!」
私が叫ぶと、黒霧の勢いは治っていく。 それは、私の怒りからなのかは分からない。 だが、現に黒霧は溶ける様に消えていく。
消えた霧から、クロエの姿が現れる。 私は、即座に駆け寄る。
「クロエ!」
私の声に反応したのか、微かに反応する。
見たところ、魔獣につけられた傷以外は無さそうだ。
私は、周囲を見渡す。 黒い霧の影響で、草木は枯れており、私の知る森とは思えなかった。
魔獣の方を見ると、身体の水分を抜き取られたかの様な姿となっている。 もし、彼女もあんな最期を迎えていたらと想像をしてゾッとする。
そう考えていると、鼻の上になにか冷たい何かが触れる。
よく見ると、周囲に白い何かが降っていた。 手のひらに落ちた白いソレは、溶けて水滴に変わる。
「これは……雪?」
季節外れの、雪が降っている。 吐く息が白くなっており、気温が下がっているのが分かる。
「でも、何で雪が? ⁉」
私が、空を見ていると、後ろから気配を感じて振り返ると、1人のエルフが立っていた。
その人物を見て、私は驚く。
「!? 狩人長?」
その人物は、アルフレッド・フォール。 村の狩人達をまとめる狩人長であり、クロエの祖父でもある。
そもそも、狩人長自身が出向くなど殆どなく、大抵は他の狩人が行動する。 狩人長が、直々に来たと言う事は、それだけ今回が重大な出来事だったのだろう。
狩人長は、空を見る。 そして、枯れ果てた魔獣の亡骸を見る。
「雪に、干からびた魔獣……か」
狩人長は、私を睨む。 その眼は、何かを察した眼だ。
「やはり……目覚めたか」
「え? 目覚める? それって、どういう意味でしょうか?」
私の言葉に反応せず、彼はクロエの方に行くと軽々と担ぐ。 そして、私に背を向ける。 まるで、私は居ない者の様な扱いだ。
狩人長は、横目で私を見る。
「私と一緒に、村長の家まで来てもらうぞ」
「村長の家に?」
「変な気は、起こすなよ?」
変な気? 何を言っているの?
それに、目覚めたってどういう事?
もしかしたら、村長の家で説明があるかもしれない。 私は、狩人長の後に黙ってついて行く。
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