処刑されるはずだった令嬢と英雄になるはずだった女子高生

夢十弐書

0-1 はじまり【アイーシャ視点】


ボルベラーズ王国。

そこは『赤い糸で紡がれた星典』の世界であり、私が死んで生まれ変わった世界でもある。


『私』とは、藍更静女あいさらしずめ。そして生まれ変わった今は、ストゥル侯爵の娘・アイーシャ。


『赤い糸で紡がれた星典』とは、私が死ぬ前に生きていた世界にある国・日本で人気だった女性向けのアプリゲームだ。主人公は異世界(日本)からボルベラーズ王国に召喚された女子高生で、翌年に起こる邪神退治に力を貸してほしいと頼まれる。人が良い主人公は快諾し、一年間、王立ルスカ学院に通いながらさまざまな知識や技術などを得て、翌年に邪神を退治する。その後も色々とあるのだが……まあ、これは割愛しよう。


大事なのは、私の立ち位置だ。




本日、雲ひとつなく晴天なり。

私は婚約者であるボルベラーズ王国の第二王子であるエリック様と王城でお茶をしていたのだが、「実は紹介したい人がいるんだ」と言われてある人に会わせられた。


この世界ではほぼ見ない、真っ黒な髪と真っ黒な瞳。健康的にほどよく焼けた肌色は、その人が外でよく活動しているのだろうと想像させた。


そして、これまたこの世界では見かけないセーラー服。


この子は——


私がピンときたのと同じタイミングで、エリック様が紹介する。


「彼女はカノウエ・ヒナカ。異教徒が異世界から召喚してしまったらしくて……。元の世界に戻るまで、アイーシャも仲良くしてあげてくれないかな」


名前は知らない。

召喚された経緯も、アイーシャが知るものではない。


——そもそも、この世界に異世界から女子高生が召喚されるなんて、あってはならないはずだった。


エリック様に促され、ヒナカという少女は緊張気味に、だけれど元気よく挨拶をした。


加上かのうえ陽魚日ひなかです!その、至らないところがあると思いますが、精一杯がんばりますので、よろしくお願いします!」


台詞も、知らないものだ。


それもそのはず。私はこの世界に異世界から女子高生が召喚されないよう、彼女がこちらに来る理由を潰した。邪神はこの世界にいない。だから女子高生が召喚される事態なんて起きないはずだったのに!


貴族らしく表面上は笑顔を保ちながら、頭の中は大混乱だった。


この子はここに来てはいけなかった。


この子は……アイーシャが処刑される原因となる子なのだから。


ゲーム内でアイーシャは、主人公を敵視し、愚かにも王位簒奪を企てる。その結果、一年後に斬首刑となった。


私は主人公を敵視する気も、王位簒奪を企てる気もない。生き残るためにここまでやってきたのだ。主人公が現れて私の運命を狂わせないようにと、万が一のことを考えて行動してきた、それなのに召喚されてしまった。


もしかして……私が死ぬ可能性は、消えていないのでは?

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