第4話 雑草魂!根圧による装甲破壊

ズドォォォン!!


凄まじい轟音とともに、俺たちの頭上の岩盤が砕け散った。


土煙の中から落下してきたのは


全高3メートルはあろうかという巨体だ。


黒鉄で作られた全身鎧。


その内側には人間ではなく


駆動用の魔石と歯車だけが詰まっている。


王宮直属の暗殺用魔導人形ゴーレム


通称「処刑鎌グリム・サイズ」だ。


「……ッ! クロード、下がって!」


リリアーナ王女が叫び、俺の前に飛び出そうとする。


回復したとはいえ、彼女は病み上がりだ。


「殿下、お下がりください。これは『庭仕事』です」


「何を言っているの!? あれは対人戦闘用の兵器よ!

 園芸用のハサミで勝てる相手じゃないわ!」


王女の悲痛な叫びを、ゴーレムの駆動音が掻き消す。


ギギギ、ガシャン。


無機質な赤光を放つカメラアイが、俺たちを標的として認識した。


右腕に装備された巨大な鎌が、無慈悲に振り上げられる。


まともにやり合えば、俺など一撃で肉塊だ。


だが、俺には見えていた。


あのゴーレムの関節部分――装甲の継ぎ目から


わずかに漏れ出ている潤滑油と、冷却用の水蒸気を。


「水があるなら、そこは俺の領域フィールドだ」



ゴーレムが鎌を振り下ろす刹那、俺は正面から突っ込んだ。


「なっ……自殺行為よ!」


王女の悲鳴。


だが、俺は死に急いでいるわけではない。


鎌が空気を切り裂く風圧を肌で感じながら


俺は地面をスライディングで滑り抜け


ゴーレムの股下へと潜り込んだ。


そこは死角であり、同時に最大の弱点でもある。


俺はすれ違いざまに


先ほどすり鉢から掴み取った「アビス・ミントの種」を


ゴーレムの膝関節と足首の隙間にねじ込んだ。


「チェックメイトだ」


さらに、懐から取り出した小瓶を叩きつける。


中身は、先ほどのスムージーを作った際の残り――


「高濃度魔力水溶液(ハイポニカ原液)」だ。


通常、植物にこれを与えれば肥料焼けで枯れる。


だが、アビス・ミントのようなダンジョン変異種


それも「発芽直後」の種子に限っては、これが起爆剤となる。


俺は転がるように距離を取り、指を鳴らした。


俺の固有スキル、【強制発芽フォース・スプラウト


本来は発芽率の悪い種を目覚めさせるだけの地味なスキルだが


この環境下では意味が変わる。




ドクンッ!!


ゴーレムの足元で、脈打つような音が響いた。


次の瞬間、鋼鉄の装甲の隙間から


白い『何か』が噴き出した。


それは植物の根だ。


だが、地上の柔らかな根ではない。


高濃度の魔素を吸い上げ


コンクリートすら突き破る強度を得た、極太の白竜だ。


「ギ、ガ、ガガ……!?」


ゴーレムが異音を上げる。


関節内部で急成長した根が


歯車やシリンダーに絡みつき、その動作を強制的にロックしたのだ。


しかし、俺の狙いは拘束だけではない。


「植物の力を舐めるなよ。根が水を吸い上げる圧力――

 『根圧(ルート・プレッシャー)』は、時に岩をも砕く!」


俺の言葉に応えるように、根はさらに膨張した。


行き場を失った根は、圧倒的な『成長しようとする力』を


内側から装甲板へと叩きつける。


ミシミシ、パキィィィッ!


金属が悲鳴を上げ、リベットが弾け飛ぶ。


白く輝く根が、分厚い装甲を内側から押し広げ


ついにはへし折った。


「ギ……ガ…………」


片足を破壊された巨兵は


バランスを崩して轟音と共に横倒しになった。


その巨体は今や、白い根によって完全に苗床ポットと化していた。




倒れたゴーレムの装甲の隙間から


青々としたミントの葉が顔を出し、爽やかな香りを漂わせ始めた。


破壊と再生が同居するその光景は、どこか芸術的ですらあった。


「……嘘、でしょう?」


リリアーナ王女が、呆然と立ち尽くしている。


「最新鋭の魔導兵器が、たった数秒で……植物に乗っ取られるなんて」


「ただの雑草でも、環境(水と光)さえ整えれば

 鉄をも食らう怪物になれる。それが水耕栽培です」


俺はゴーレムだった残骸――今は巨大なプランターに近づき


伸びてきたミントの葉を一枚摘んで、王女に差し出した。


「食後のデザートにどうぞ。さっきのより新鮮ですよ」


彼女は瞳を丸くし、それから、花が咲くように笑った。


「貴方って、本当に規格外ね。……ありがとう、クロード」


その笑顔を見た瞬間、俺の中で何かが決まった。


ここは不毛の追放地じゃない。


俺と、この王女のための、最高の農園になる場所だ。


「さて、害虫駆除も終わりましたし、本格的に拠点を作りましょうか。

 殿下には、収穫係を手伝っていただきますよ」


「ええ、喜んで。……ふふっ、王室庭師に雇われる王女なんて

 前代未聞ね」



こうして、俺と王女のダンジョン農園生活が始まった。


地上では「死んだ」と思われている俺たちが


この後、世界中の常識を覆す野菜(エリクサー)を


大量生産し始めることを、まだ誰も知らない。

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