じゃんけん〜大好きなお父さん〜

野槌エサル

じゃんけん〜大好きなお父さん〜

私は小さい頃のことを思い出していた。私が小学校の3年生ぐらいのことだろうか。


私には1歳下の妹がいる。私は妹のことが大好きで、今も仲がいいのだけれど、姉妹げんかもよくしていた。


あの時の喧嘩のタネは、隣のおばあちゃんにもらった、一本のりんごの缶ジュースだった。


2人でコップに取り分けていた時のことだ。


「あーっ、ずるい。絶対お姉ちゃんの方が多い。」


「そんなことないよ。もしそうでも、ひーちゃんの方が体が小さいんだから、我慢したらいいじゃん。」


そう言いながら、確かに私は自分の分を少し多めに入れていた気がする。子どもなんてそんなものだ。


妹も負けずに言い返す。


「じゃあ同じなら、わたしがそっちもらう。」


「だーめ、こっちはお姉ちゃんの。」


「ずるいよ。お姉ちゃんは、お姉ちゃんなんだから我慢すればいいじゃん。」


お母さんがよく口にしていた言い方をされて、私はますますムキになる。


2人してジュースにありつけないまま言い合っていると、仕事がお休みだったお父さんがにこやかに近づいてきた。


「どーした、どーした、けんかか?仲良くしないとダメだぞ。」


穏やかにそう話すお父さんに、わたしは子どもなりに状況を説明した。


「そーか、よくわかった。いずれにしてもけんかは良くないな。仲良し姉妹なんだから、せっかくもらったジュース、楽しく飲もう。」


お父さんの優しい言い方に、私も妹も少しずつ落ち着いていった。


「じゃあまずは、2人でじゃんけんしよう。これは、どっちが勝っても恨みっこなしだぞ。」


「うん、わかった。」


2人はもう、すっかり機嫌が良くなっていた。


「それから、勝った方がジュースを分ける。そして、分けたジュースを選ぶのは負けた方からだ。」


「ふーん。」2人して、少しきょとんとしている。


「いいか?ジュースを分ける方は後から自分で選べないから、ちゃんと同じように分けようとするだろ。選ぶ方も自分で選ぶんだから、後から文句を言っちゃダメだぞ。お父さんは、これが一番平等な分け方だと思うよ。わかった?」


「うーん、よくわかんないけど、わかった。お父さんの言うとおりにする。」


「えらいぞ。ひーちゃんもそれでいいかな?」


「わかった。」


妹もよくわかっていなかったかもしれないけど、お父さんが言うならそれで、という感じで素直にうなずいた。


じゃんけんは、確か私が勝って、私がジュースを2つのコップに分けた。そのコップのうちの一つを、妹が先に選んだ。


お父さんがそばで笑っていた。2人はケンカしていたことも忘れて、仲良くジュースを飲んだ。あの時のりんごジュースの味を今でも思い出すことができる。


……


お父さんは、いつも平等に私達に接してくれていた。


この当時の私はまだ、お父さんとは血が繋がっていないことを知らなかった。


今、大人になって思い返してみると、お父さんは「平等の人」だったと思う。


私達に、平等に愛情をかけてくれていた。きっとお母さんにも。いや、お母さんにはもっといっぱいだったかも。でも、それは許してあげるね。


みんな、お父さんのことが大好きだった。


そんなお父さんは、きっと、誰にでも平等でありたい、なんて考えてたんじゃないのかな。


平等の人。


……


でも……


だったら……


急に、私の中で感情が昂っていくのを感じていた。突如として、加速度を増していくその思いに、私はブレーキをかけることは出来なかった。


……


だったら……


だったら、お父さんの時間も、私の友達とおんなじぐらいにして欲しかったよ。平等にしてよ。


誰が、お父さんの時間を決めたの?誰が、お父さんがいる時間といない時間を分けたの?


平等じゃないんじゃない?お父さんらしくないよ。


ねえ、お父さん……


……お父さん、


じゃんけんしようよ……


あの時みたいに、


絶対に私が勝つから……


私がちゃんと、他のみんなと同じだけ、平等にお父さんの時間を分けてみせるから…… 

                                        (了)

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