最強無双のプロデューサー 〜追放されて最強になった俺は、売れない勇者パーティーを育成する裏方となる。そんなに強いなら戻ってこいと言われても、まだ早い〜
役所星彗
第1話「追放→最強→プロデューサー?」
全世界にダンジョンが出現し、『ジョブやスキル』を駆使する冒険者が現れて久しい。
ダンジョン探索の様子を配信する『配信冒険者』が子供たちの憧れの職業ランキングの上位を占める──そんな世界の日本。
◇
今日は俺たちのパーティ【
酒場らしい少しベタついたテーブルの向かい側で、赤い髪をしたリーダーの勇者である
「
刃のように鋭い一言。
俺たちのテーブルだけ、時が止まったかのように静まり返っていた。
その静寂の真ん中で、俺は喉から絞り出すようにか細い声を震わせる。
「パーティから抜けるって……どうしてだ?」
「理由なんて分かりきってるだろう? ……ヒロ。君はもう僕たちの足手まといなんだ」
トウマは突き放すような芝居がかった口調で言葉を続ける。
「ジョブもスキルも持たない君にできるのは、荷物持ちと配信の撮影だけだ。これからのダンジョン攻略にはついてこれない」
その言葉に合わせるように、メンバーの魔法使い
「それはつまり……追放、ってことか?」
「ああ、追放だ。すでにパーティ登録も解除してある。身の丈に合わない夢は諦めて、普通にサラリーマンでもやるといい」
その言葉に俺は念のためにステータス画面を思い浮かべる。目の前に表示されたステータスのパーティ表示は、確かに空欄になっていた。
正真正銘、れっきとした追放だ。
「……わかった。じゃあ最後に、一つだけ言わせてくれ」
「構わないが……何を言っても無駄だぞ?」
トウマはきっと再加入のお願いか、恨み言でも言われると思ったんだろう。硬い表情のまま腕を組み直した。
俺はテーブルに腰掛けてこちらを睨んでいるメンバー全員の顔をグルリと見回し、腹の底から叫んだ。
「お前らなぁ……追放するの遅すぎなんだよッ!!!!」
「「「「えっ!?」」」」
パーティの四人全員が同時に素っ頓狂な声を上げた。冷ややかな視線から一転、驚きと困惑の表情が浮かぶ。
つい先ほどまでの冷たさは、一瞬でどこかに吹き飛んでしまった。
「えっ……遅すぎって、どういうことだ?」
ようやく絞り出したトウマ。
その声はもういつもの柔らかいトーンに戻っていた。大きく目を見開いたその表情が、せっかくのイケメンを台無しにしている。
「だーかーらー! ジョブもスキルもないただの荷物持ちを、なんでCランクに上がるまで追放しないんだよっ!?」
「それは……ヒロが、いつも僕たちのために必死に頑張ってくれてたからだろ……?」
「それだぁッ!」
俺はビシッと元パーティメンバーたちを指差した。彼らは理解が追いつかないといったキョトンとした顔で俺を見ていた。
「お前らな……良いヤツすぎなんだよ!!」
「「「「!?」」」」
「そもそも追放の演技も似合わなすぎ! ダンジョン攻略の休憩中にコソコソと『これ以上はヒロの命が……』『心を鬼にして……』なんて小声で練習してるの、全部バレてたっつーの!」
「「「「!!??」」」」
「しかもハルカ! お前なんかちょっと泣いてるじゃねーか!」
俺の指摘に聖女ハルカは、「だって、だって……寂しいんだもーん!」と本格的にその大きな瞳から涙をこぼし始めた。
いつも無表情な魔法使いのエマでさえ、あんぐりと口を開けて固まっており、そのジト目が驚きに見開かれていた。
リーダーのトウマに至っては驚きのあまりに椅子から立ち上がり、そのまま固まってしまっている。
──その時だった。
何の前触れもなく、心臓の奥深くで太陽が生まれたように体中が熱を帯びた。
未知なる力が全身を駆け巡り、世界の法則が自分を中心に書き換わっていくような、圧倒的な全能感。
今まで見えなかった世界の魔力粒子が、星空のように瞬いて見えてきた──。
「おいどうしたっ!?」
突然光り出した俺を見てトウマが驚きの声を上げるが、俺は至って落ち着いている。
……いや、嘘だ。ホントは全くもって落ち着いてなんかいない。内心は歓喜の嵐、心臓はバクバクお祭り騒ぎだ。
俺は急いで、自分だけに見えるステータス画面を展開する。
そこに表示されていたのは、つい先ほどまでの何の特徴もないステータスではなく──今までに見たことも聞いたこともない膨大な量のスキルと、カンストしきったステータスの数値。
(よしよしっ! ちゃんときたっ!!)
安堵と興奮に包まれた俺は、気が付けば渾身のガッツポーズを繰り出していた。
……チラリと横を見ると、ワケがわからないといった様子で頭にはてなマークを浮かべているパーティの皆。
ゴホン。俺は込み上げる嬉しさを咳払いで誤魔化し、呆然とする皆に向き直った。
「今まで黙っててごめん。──実は俺には、隠していたスキルがあったんだ」
俺はこの状況の種明かしを始めた。
◇◆◇
【固有スキル:
《効果》
パーティを追放されることで、そのパーティ全員分の将来到達し得る『最大値』のステータスと全スキルを自分のものとして獲得する。
《制約》
このスキルの存在を他人に説明したり、わざと追放されるような行動を取った場合はスキルは発動しない。
◇◆◇
「……というわけで俺は、皆から自然に追放してもらう必要があった。追放されないように必死で働きながらも、内心では早く追放してくれって願ってたんだよ」
皆は黙ったまま、俺の告白に真剣に耳を傾けている。聖女ハルカの涙も、いつの間にか乾いていた。
「俺は文字通り何のスキルもない役立たずだったし、すぐに追放されるかなって思ってたんだけどね。まさか三年もかかるとは予想外だったよ……」
俺の説明が終わり、テーブルに再び沈黙が訪れる。最初に我に返ったリーダーの勇者トウマが、ゴクリと喉を鳴らして尋ねてきた。
「なるほどな……。パーティ全員分の最大値のスキルとステータスって……それ、ものすごく強いんじゃないか?」
「ああ、強いよ」
その質問に俺は即答する。心の底から湧き上がる、絶対的な自信と確信があった。
「スキルが発動した今の俺は途方もなく強い──文字通り、世界最強だと思う」
「最強……! 良かった、それならまた一緒にパーティに……!」
希望に満ちた表情で、トウマがパーティへの再加入を勧めてくる。絵本から飛び出した王子様のような、いつものキラキラした笑顔だ。
だが俺はその申し出を、片手で軽く制した。
「戻ってこいと言われても、まだ早い」
「……えっ、まだ……早い?」
その言葉の意味が分からないといった様子で、トウマは俺の言葉を繰り返した。残りの三人も眉にシワを寄せて、首を傾げている。
その問いに答えるため、俺はまずスキルの制約について説明する必要があった。
「俺のスキルは最強だけど、制約もある。皆が成長して俺と対等に戦えるくらいの力を持つまでは、俺はパーティに戻れない」
「対等って、ほぼ最大レベルってことか……」
「ああ。そしてそれだけじゃない。パーティ登録は無くても、同じダンジョンに一分以上入っているだけで共闘とみなされ、俺は全てのスキルとステータスを失ってしまうんだ」
俺の告白に、希望に満ちていた皆の顔が悲しそうに曇っていく。
魔法使いのエマがそのジト目をこちらに向けて、ポツリと呟いた。
「また一緒に冒険できると思ったのですが……」
再び沈黙が訪れる。その重い空気を断ち切るように、俺はあえて明るい声を出した。
「ああ、だからさ……!」
俺がそう言いかけると、四つの視線が一斉に俺に突き刺さる。
「「「「だから?」」」」
皆の声が綺麗に重なった。
俺は思わずニヤリと笑い、胸に秘めていた新しい"夢"を口にした。
「だから俺は、このパーティのプロデューサーになるよ!」
「プロデューサー? ……って、どういうことです?」
魔法使いのエマが口を尖らせる。他の皆も黙ってはいるが、同じような表情だ。
「こう言っちゃなんだけど……俺たちって、地味な底辺配信者パーティーとしてめちゃくちゃ見下されてるだろ?」
「うっ……ハッキリ言うなよ……」
俺のストレートな言葉にリーダーのトウマが苦い顔でうめき声を上げる。
「今のところは事実だからな。そしてそれはスキルなしの俺をかばっていたせいで、皆の本来の魅力や実力を出しきれていなかったからでもある」
「おいそれは違うぞ。ヒロは精一杯やってただろ!」
盗賊のジョージがテーブルを叩いて熱く反論してくれる。その優しさを感じながらも俺は首を振って話し続ける。
「良いんだ。こんな役立たずをCランクになるまで見捨てないでくれた皆には、一生かけても返しきれない恩がある。もう皆と一緒にダンジョンには潜れないけど……俺は、皆のことを陰ながら支える『最強のプロデューサー』になりたいんだ」
「じゃあ……」
聖女のハルカが、その大きな瞳を潤ませながら俺を見る。
「じゃあ、これからも一緒に冒険できるってこと?」
俺は彼女に……いや、パーティメンバー全員に力強く頷いてみせた。
「ああ。皆で一緒に頂点を獲ろう……!」
俺の言葉を聞いた皆の瞳に、暖かな光が宿ったのがわかった。
「……でも頂点って、どうやるんだい?」
と、感動的な雰囲気を破ったのはリーダーの勇者トウマだ。
「自慢じゃないけど、僕たちは相当地味だよ……?」
俺はその問いに答える。
俺たちの夢の物語は、ここから始まるんだ。
「俺に良い考えがある。それは──」
――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
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