皇女殿下の飛空艇

うにおいくら

第一章 炎竜退治

第1話 飛空艇

 空は広い。

どこまでも広がる雲一つない青い空。異世界でも空の青さは同じだ。

今、地上から目を凝らして見上げれば、そこに空に浮かぶクジラの様な物体が見えるはずだ。


 それは青い空を横切る様に飛行している飛空艇の姿だ。もし人が近くでそれを見る事があれば、飛空艇というよりは航空戦闘艦といった方が良い艤装である事に気が付くだろう。ただこの世界に存在する航空戦艦と比べると、少しコンパクトなつくりとも言えた。


 この飛空艇、通常であればもっと低い高度でのんびりと飛行しているが、この辺りは浮遊大陸や浮遊島が密集しているのでいつもより余裕をもって高度を高めにとっていた。


 しかしこの世界で空に浮かぶクジラに見える飛空艇はこれだけで、他の飛空艇はどちらかと言えば……我々の感覚では形は飛行船と呼ばれるものに近いか、木造の帆船のような形をしたものが大半だった。







 今、このクジラのような飛空艇の操縦室コックピットの窓から、眼下に目指す浮遊大陸がぽつんと見えて来た。

正確に言うとそれは浮遊大陸というより浮遊島だ。それほど大きくはない。



「シバ艇長、そろそろ高度を下げますか?」

副操縦士になって三年目のショーンは隣の操縦席で帽子を顔の上に乗せて、ほとんど眠りかけているシバに聞いた。


「あ? うん? もう着いたのか?」

シバはそう言うと帽子を取り、操縦席の背もたれから身体を起こすと大きく伸びをした。歳の頃は三十代半ばか?

全く手入れをしていないぼさぼさの髪をかき分けながら頭を振った。


「いえ、もう少ししたら島の上空に差し掛かります。でも、どうせ寝るなら艇長席で寝た方が楽だったかもですね」

ショーンが操縦席の後方にある艇長席に目をやりながら答えた。操縦室コックピットと言ってもどちらかと言えば海に浮かぶ戦艦の艦橋程度の広さがある。元はといえば航空戦艦として建造された飛空艇だった。


「まあな。でも俺はこっちの席の方が案外寝やすいんだよなぁ」

 と言いながらシバは限りなく無精ひげに近いあごひげに手をやった。そして目を凝らして浮遊島を見た。


「……ちょっと早く迎えに来すぎたかな? あいつら……もう仕事は終わっていればいいんだが……」

とつぶやいた。どうやらこの飛空艇はこの浮遊島に冒険者たちを運んで、また再び迎えに来たようだった。


「さあ? どうでしょうかねえ? それほど難しいクエストではないですからねえ……もう終わっていてもおかしくはないですけど……」

ショーンは操縦桿を握ったまま答えた。


「まあいい。そろそろ高度を下げようか」


「了解。高度下げます」

ショーンはスロットルを絞った。

この飛空艇はこの星で採れる飛空石と呼ばれる魔石を加工して出来るガリア鉱石棒を使って飛行している。


 目の前にある浮遊大陸もそのほとんどが飛空石からできている。

地中深く高温高密度で凝縮された飛空石の塊を正式にはガリア鉱石という。それをさらに棒状に加工した物がこういった飛空艇や航空戦艦等に利用されている。


「なんだ?」

と不審げに呟いたシバが、おもむろに双眼鏡を手に取り覗き込んだ。


「どうかしましたか?」

ショーンも慌てて操縦桿を操りながら片手で双眼鏡を手に取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る