第21話 変わった背中、変わらない場所
街の朝は、七日前と同じようで、どこか違って見えた。
宿屋の前を通り過ぎるとき、無意識に足が止まりかける。
七日前まで、ここに仲間がいた。
今はもう、それぞれの道を歩いている。
だが今日は――違う。
「……迎えに行く日だ」
そう呟いて、俺は剣の柄を軽く叩いた。
確かにここにある重み。
七日間、アヤと積み上げてきた“生きるための力”。
*****ギルド前*****
ギルドの前は、朝から人でごった返していた。
討伐帰りの冒険者。
新規登録の新人。
依頼の張り紙を睨みつけるベテランたち。
その喧騒の中――
俺は、約束の場所へ向かう。
ギルド裏手、小さな広場。
最初にPTを組んだ、あの場所。
まだ――誰もいない。
石の縁に腰を下ろし、空を見上げる。
雲がゆっくりと流れていく。
「……全員、無事に来いよ」
そう願った瞬間だった。
「――ショウタ」
聞き慣れた、少し低くて落ち着いた声。
「……レオン」
振り向くと、そこにいたのは――
剣を腰に帯び、背筋をまっすぐ伸ばしたレオンの姿だった。
「……久しぶりだな」
「七日ぶりだ」
短い言葉。
だが、その佇まいだけで分かる。
――変わった。
目に迷いがない。
立ち方に、芯が通っている。
「師匠は……どうだった」
「想像以上に、容赦がなかった。だが――」
レオンは一度だけ、静かに息を吸う。
「“守るための回復”とは何か、叩き込まれた」
腰の小さな聖具が、微かに光って見えた。
「……お前も、顔が違うな」
「アヤの地獄を、少々」
二人で、小さく笑った。
市場の方から、ぱたぱたと軽い足音が響く。
「……ショウタ……!」
息を切らしながら駆けてきたのは――ミナだった。
「……無事だったか」
「うん……ちゃんと……生きてる……」
だが、その声音は七日前よりも、はっきりしている。
魔導書を胸に抱え、
杖は以前よりもしっかりと握られている。
目が、逃げていない。
「……顔つき、変わったな」
「……いっぱい……怒られた……でも……逃げなかった……」
その言葉だけで、修行の重さが伝わってきた。
レオンが静かに頷く。
「ミナは、もう“守られるだけの後衛”じゃないってことだな」
ミナは、少し照れたように視線を逸らした。
最後に現れたのは――
金属の鎧が、朝日に鈍く反射した瞬間だった。
重い足音。
だが、迷いの無い足取り。
「……遅れた」
クロだった。
七日前まで片腕を庇うようにしていた姿は、もう無い。
両肩が、自然に開いている。
「……完全に、治ったな」
「……ああ」
それだけで十分だった。
クロは一度だけ拳を握り、開いた。
力が、確かに戻っている。
こうして――
四人が、再び揃った。
誰も欠けていない。
レオン。
ミナ。
クロ。
そして、俺。
それぞれが、七日間を生き抜いて、ここに立っている。
「……まずは」
レオンが静かに言う。
「生存報告、完了だな」
「ああ」
「……うん」
「……問題ない」
短い言葉。
だが、それ以上はいらなかった。
俺は、三人の顔を順に見た。
「……で」
クロが言う。
「次は、どうする」
レオンが、ギルドの張り紙の方へ視線を向ける。
「師匠への道は、まだ途中だ」
「銀貨も、まだ足りない」
「……だから」
ミナが、小さく、でもはっきり言った。
「また……みんなで……依頼に行こう……」
三人の視線が、俺に集まる。
俺は、剣の柄を軽く叩いた。
「――当然だろ」
四人で、同時に頷いた。
こうして――
再び、俺たちの物語が動き出す。
七日間の修行は、終わった。
だが――
本当の戦いは、ここからだ。
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