第12話 合同依頼、ゴブリン迎撃戦

 森の奥に入ると、空気がさらに重く湿ったものに変わる。風はほとんどなく、枝や葉のざわめきだけが耳に届く。九人の呼吸が少しずつ荒くなるのを感じながら、レオンは隊列を確認した。


「前衛はリリィとガルド。中衛はハーグとショウタ。後衛はセラとミナ、中央支援はユース。最後尾はクロ。位置を崩さず、慎重に進むぞ」


 九人は無言で頷き、静かに歩を進めた。


 すると、遠くから金属がこすれる音と、低いうなり声が聞こえてくる。


「……来たな」

 ガルドが盾を前に突き出し、低く唸る。


 一瞬の静寂の後、茂みの中からゴブリンの群れが飛び出してきた。数は十数体、こちらの隊列を見て興奮したように咆哮する。


 ユースが声を張る。

「迎え撃つ! 散開はせず、隊列を崩さず、逃がすな!」


 前衛のリリィとガルドが素早く前に出る。リリィの剣は鋭く閃き、飛びかかってきたゴブリンを斬り払う。ガルドは盾で前方を固め、仲間に攻撃の隙を作らせる。


 中衛のハーグは槍を構え、前衛と後衛の間でゴブリンの突進を受け止め、距離を保ちながら突きを放つ。俺は剣を強く握り、ゴブリンの動きを観察しながら斬撃を加える。


 後衛のセラとミナは棒や弓で支援。セラは弓矢を的確に飛ばし、接近するゴブリンを牽制する。ミナは棒で敵の足元を狙い、仲間の攻撃を補助する。


 ユースは中央で回復と支援。傷ついた仲間に手をかざし、簡単な回復魔法を使う。

「……みんな、焦らずに!」

 レオンは回復の詠唱を行うユースの護衛。ゴブリンの攻撃をユースに通さないように棒を使って攻撃をいなす。


 最後尾のクロは周囲の森を警戒し、奇襲や背後からの攻撃を防ぐ。片腕が不自由ながらも、その存在だけでゴブリンを抑止する力がある。


 ゴブリンたちは数こそ多いが、連携はなく、単純に突撃してくるだけだった。

 しかし数で押してくるため、油断はできない。


 少し下がったリリィがミナに小声で囁く。

「ミナちゃん、無理しないで。棒で構えて、落ち着いて」

「……わかった……」


 ミナは深呼吸し、棒をしっかりと握り直した。


 ショウタは、アヤに教わった幻歩げんぽの感覚を頭の片隅に置きつつ、前に立つゴブリンの隙を狙う。

 まだ使うつもりはなかったが、視界のずれを感じることで、敵の動きを予測しやすくなった。


 数十分の戦闘の末、九人はゴブリンを完全に討伐した。逃げた者は一匹もいない。前衛のリリィとガルドが残った数体を確実に排除し、森には静寂が戻った。


 息を切らし、傷を確認する九人。幸いにも、今回の合同クエストでは死人は出なかった。


「……全員無事だな」

 レオンが安堵の声を上げる。


 ユースも肩の力を抜き、笑みを浮かべた。

「みんな、よくやった。初めての合同討伐としては上出来だ」


 ミナはリリィの横で微笑み、セラも軽く頭を下げた。俺は腰の剣を握り直し、次の戦いに備える気持ちを胸に刻んだ。クロも無言で頷く。


*****街*****


 街に戻ると、ギルドのカウンターで報告を行う。

 カウンターの男は二つのPTの成果を見て、にっこり笑った。

「やるじゃないか。報酬の銀貨二十枚だ」


 報酬は二つのPTに平等に分けられ、各人が銀貨二枚~三枚を手にした。残りはPT貯金として保管される。


 レオンは簡単に計算しながら、次の戦略を考える。

「これで、師匠に支払う銀貨まで少し近づいたな」


 ミナは満足げにリリィに微笑む。

「……ありがとう、リリィ」


 リリィは控えめに微笑み返す。

「こちらこそ、無理せず頑張ろうね」


 クロは肩を押さえつつも、微かな笑みを見せる。


 こうして、合同クエスト──ゴブリン迎撃戦は無事終了した。

 新人PT二つにとって、大きな自信となる戦いだった。

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