第4話侵入者 ~繁殖種族のロックオン~

無事(船外活動30分のみ)に船へ戻ったシャピとクリス。

デッキ前に立ち、ハッチがゆっくり開く。


シュイィィィ……


次の瞬間――


「…………あ?」


そこには見知らぬ女性の影が、船のモニターを操作していた。


そいつはゆっくり振り返る。


そしてシャピの思考は一瞬フリーズした。


裸。


しかも普通に綺麗。

肌は緑がかった白。しかし腰、腕、背中、髪――

あらゆる場所からタコのような触手が生え、全身がぬるぬる光っている。


エイリアンと分かるのに……やたら艶っぽい。


モップを握りしめながら叫ぶシャピ。


「お前!! 誰だ!! どこから入った!!?」


エイリアンはまったく動揺しない。

むしろ興味なさそうに言う。


「これはどうやって使うのだ?」


言いながら、タッチパネル上のボタンを適当に連打する。


《ピピピッ……

エンジン再起動不可能》


シャピは震える手でモップを構える。


「名乗れッ!!」


触手美女は淡々と答えた。


「私はスフィア。宇宙をさまよう繁殖種族。

異星生命体に取り憑き、繁殖するために存在する」


「繁殖種族?」


シャピはモップを前に突き出しながら続ける。


「え? もしかしてエンジン爆発させたのって?」


「この船が見えたので突っ込んだら勢いがつきすぎてしまってな」


「勢いがつきすぎてしまってなじゃねーだろ」


スフィアは淡々と説明を続ける。


「我らの習性。宇宙を幼体(蛹)として漂い、

生命体を見つけると成体となる。

そして交配し繁殖するよう、遺伝子に刻まれている。

それを10万年間繰り返している」


シャピの顔が蒼白になる。


「…繁殖の相手ってもしかして僕?」


「そうだ。お前に協力してもらう」


触手がにゅるりと伸び、シャピの腕、足、腰へ絡みつく。


「ちょっ!? うわああああ来た!! 来た来た来たぁぁぁぁ!!!!!!」


抵抗にならないモップをぶんぶん振り回しながら叫ぶ。


「クリス!! 助けて!!! 今すぐ助けて!!!!!」


横のクリスは冷静そのもの。


「現在、エイリアンの情報を照会中です。しばらくお待ちください」


「“しばらく”ってどれぐらいだよ!!」


「処理時間:推定17分です。耐えてください。シャピ船員。」


「な、長い!」


スフィアの触手はさらに増え、シャピを完全にホールド。


「や、やめて!! 無理ならもうちょっとロマンチック希望!!」


「却下。繁殖行動に不要」


船内にはシャピの悲鳴と、

ヌルヌルとした生物音だけが響いた。


荒い呼吸のまま、震える声で尋ねる。


「……ぼ、僕を……殺さないのか……?」


スフィアは首を傾げる。


「なぜ殺す必要がある? 繁殖行為と殺戮行為に関連はない」


クリスの表示が変わる。


「情報更新。スフィア種族は敵対性が低く、他種生命体を“パートナー化”し、

繁殖資源として扱う傾向があります」


「パートナー化!?」


――彼はまだ知らない。

スフィアとの“共生”は、想像の三倍めんどくさいことを。

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