第3話ジュラシックの惑星

――ビービービービーッ!!!


船内に響き渡る緊急アラームに、シャピは椅子から飛び上がった。


「な、なに!? なに!?」


船体は不規則に揺れ、天井のパネルがパラパラと落ちてくる。


慌てて窓の外を見ると、視界一面に巨大な緑色の惑星が迫っていた。


「……近っっ!! なんだよこれ!!」


震える声で叫ぶと、背後から淡々とした説明が届いた。


「報告。先日の爆発の影響で進行ルートが変更され、現在、惑星番号X-1919の重力圏に引き寄せられています」


「引き寄せられてますって、落ちてるってことじゃないのか?」


「訂正。落下中です」


クリスは平然と続ける。


「衝突まで、残り30分です。着陸準備を推奨します」


シャピは青ざめながら宇宙服を着込み、座席へ飛び込む。

激しく揺れる中、必死にシートベルトを締めながら叫んだ。


「頼む! 死にたくない!!」


直後――


ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


船体が回転し、重力が体を押しつぶし、視界が上下左右めちゃくちゃになる。


金属音、衝撃、軋み、そして――


シャピの悲鳴。


ドンッ!!!


宇宙船は惑星1919に不時着した。


「……死んだかと思った……」


衝撃が収まると、クリスがモニターに惑星情報を映し出す。


「惑星1919。表層の99.1%が森林。大気は呼吸可能。生物反応あり。知的生命体は未確認です」


シャピは深く息を吸い、決意した。


「…………外、出るか」


「了解。探索モードに移行します」


クリスは滑らかな動きで装備棚に歩き、銃を取り出した。

ピッ、と冷たく機械的な音で武装完了。


シャピもレーザーガンを手に取る――が。


ピッ(使用拒否)


「え? 何これ? 壊れてる? 俺のだけ?」


クリスが振り向き、申し訳なさそうに言う。


「説明。臨時クルーには武器使用許可がありません」


「なんでだよ。こんな状況だよ?」


「規則です。代わりにこちらをどうぞ」


手渡されたのは――モップ。


「船の備品なので壊さないでくださいね」


「まじかよ……」


泣きそうになりながらも、シャピは船を降りた。



外はうっそうとしたジャングルだった。

湿った風が吹き、見たことのない植物がうねるように伸びている。

その表面はわずかに脈動し、生き物のように呼吸していた。


「……おお……異世界感すげぇ……ワクワクする……いや怖いけど……」


植物よりすごいのは、

地球では絶滅したはずの恐竜たちが、当たり前の顔で歩いていることだ。


地上にはトリケラトプス、スピノサウルス、体長二十メートル超のブラキオサウルス。

空にはプテラノドンまで飛んでいる。


シャピとクリスは、恐竜たちに見つからないよう慎重に奥へ進んでいった。


するとシャピは突然立ち止まった。


「クリス、ごめん、おしっこしたくなってきた」


「まぁ。でしたらその辺でどうぞ。お待ちしています」


シャピは気まずそうに大木の裏へ隠れた。


◇ 3分後


「おまたせ、クリス」


呼びかけてもクリスはぴくりとも動かない。


不安になったシャピが近づく。


「ねぇ、クリスってば? どうしたの?」


それでも反応ゼロ。完全に壊れたロボットのようだ。


嫌な予感がして、シャピはクリスの視線の先をそっとたどる。


そこには――

十五メートルはあるティラノサウルスが立っていた。


「は、は、はぐぅ!」


声にならない悲鳴。


次の瞬間、ティラノサウルスはパクリとクリスを丸のみした。


「クリスが喰われた!!」


シャピは全力で逃げ出す。


ティラノサウルスは苦々しい顔をすると、ペッとクリスを吐き出した。



シャピは宇宙船近くの高台までなんとか逃げてきた。


「クリス……ごめんよ見捨てて……でも君のことは忘れないから……

思い出は、ラブラブモードのことしかないけど……」


シャピは忘れ形見となったモップを見つめる。


「シャピ船員!」


すぐ近くから、あの機械的な声が聞こえた。


「クリス!? 生きてたのか!」


シャピは駆け寄りながら半泣きで訴える。


「急に動かなくなるし、恐竜に食べられるし、マジで心臓止まるかと思ったよ!」


「恐竜に?」


「え? 覚えてないの?」


クリスは素で首をかしげた。


「えぇ。あのとき私は船長から依頼されていた

最新のモンハンのベンチマークテストを実行していたので、

他の機能を切っていました」


「……いや、タイミング!!」


その時、クリスが静かに指をさした。


「シャピ。あれをご覧ください」


シャピが視線を向けると――

森林の上に、さっきのティラノサウルスが頭一つだけ出して、こちらを見つめていた。


「さっきのやつだ……一旦戻ろうか」


「……ですね」


シャピとクリスはゆっくり後ずさり、そこから全力で船へ駆け戻った。


――その時はまだ知らなかった。


宇宙船の奥で、ぬるぬると光る触手が静かに彼らを待っていることを。

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