変な古着屋

☒☒☒

第1話

 友達に聞いた話だが、死んだ人の服を売る古着屋があるらしい。

 最初は「へえ~」ぐらいにしか思わなかった。

 だって、着物とか古いのを考えるとまあ十分ありえるわな。

 大正時代に作られた着物ならそりゃあ元の持ち主は死んでるだろう。

 別に不思議なことはない。

 そう思って私が怖がっていないことに気づいた友人はそっと囁いた。

「今、私が着ている服もその古着屋で買ったの」

 私は思わず友人を頭のてっぺんからつま先までまじまじと見つめた。

 上質そうな深いグリーンのコートはカシミヤだろうか。

 やわらかくて軽くて着た人をそっと包んでくれるような見るからに上等なコートであった。

 それに比べて自分が来ていたのはしまむらのプチプラロリータのコートだ。

 とても気に入って買ったが、なんせ量販品。

 街中で同じものを着た人とすれ違うし、やはりロリータメゾンのコートを着ているひととすれ違ったときはちょっとだけもやもやする。

 それにどうせこのコートは数年後には飽きるか、生地がだめになって着ることは亡くなっているだろう。

 可愛いけれどプチプラの洋服というものはそういうものだ。

 今の自分に寄り添ってくれるけれど、あくまで一時の友達。

 そう、目の前にいる彼女のような――別に彼女のことが嫌いなわけじゃない。でも、学生時代の友達ってクラスが分かれただけで疎遠になるってありがちだと思う。彼女だって、きっとそうだ。一緒の授業を取っている間はこうやって空き時間に一緒に学内のカフェでコーヒーをのんだり無限にだらだらとおしゃべりをするけれど、関りがなくなったらどうやって彼女と一緒にいるのか全く想像できない。――今は一番側にいるけれど、時がきたら自然とさよならする関係。


 だけれど、彼女の着ているコートは違う。

 上質な素材はいつまでも古びることなく彼女を守り、人生に寄り添うだろう。

 服の趣味が変わっても、その普遍的なデザインはどんな奇抜なファッションとも馴染んでくれる。

 羨ましい。

 そう、喉から手がでるほど欲しいタイプの服だった。


 大学に入るまでは服に興味がなかった。

 何を買えばいいか分からないし、高校は制服があった。

 お母さんが何を着るかもうるさかった。スカートが短いとか肌を出しすぎとか。

 だけれど、大学に入った途端、急に「はいどうぞ。毎日、私服を着てください」とかいきなり突き放されるなんてひどい。

 なんなら化粧までしなきゃいけない。

 大学には勉強しにきているはずなのに、どうしてこんな高校と差があるのだろうか。ひどい。


 だけれど、私は出会ってしまったのだ。

 ロリータファッションに。

 フリルにレースにリボン、普通の服よりもたっぷりと生地を贅沢に使う快感に。


 プチプラだけど。

 本来、ロリータファッションってとても高い。

 だけれど、ここ数年ロリータファッション系のインフルエンサーがしまむらでコラボをはじめてくれたおかげで私もプチプラロリータができている。


 そこから、服というものに興味を持つようになった。

 下妻物語とか昔の雑誌「ゴシックアンドロリータバイブル」なんかを読み漁って私はすっかり、ちょっと自分は服に詳しい気になっている。

 まあ、実際は全然だ。

 ちょっと前まではコムサイズムとコムでギャルソンとヨウジヤマモトがごっちゃになっていたのだから。


 だけれど、分かる。

 着ることはできないけれど、色んな服を見ているうちになんとなく高い服というのは見て分かることに気づいたのだ。

 服に興味ない人はきっとこういうだろう。

「ブランドのタグをそとにぶら下げてなければ何をきているか人からは分からない」って。

 だけれど、実際は違う。


 見ただけで分かる高い服というのはあるのだ。

 奇抜なデザインでも、変わった色でもなくても。

 上等な服というのは明らかに違う。


 疑うならば、東京宝塚劇場とかの前で一日立っていてほしい。

 カジュアルな服から高級な服の人が出入りするけれど明らかに高級な服を身に着けている人がいる。

 それはブランドのタグなんてついてなくても分かるのだから。


 あ、ついつい服について話過ぎてしまった。

 目の前の友人は私を怖がらせようとしているというのに。

 そう、死んだ人の服を売っている店という話に興味があるふりをしなければ。

 それに私も上等なコートが手に入るならば、その死人の服を売っている店に行きたい。



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変な古着屋 ☒☒☒ @kakuyomu7

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