少女の答え・青年の問い

Dizzy

第1話少女の答え

少女は暗闇の中を走っていた。

輝くような笑顔には、あふれる喜び。

あわいアイスブルーの瞳は光を宿し、波打つ長いウエーブの金髪が踊るようにうねる。


ーーーはやく‥‥はやくとどけなきゃ!


どこまでもつづく暗闇のトンネル‥‥それはかつて彼女が長い時間をともにした、明るい色の瞳の青年のいる場所につながっている。

かつては気づかずにただ何度もくぐり抜けた。

今こうして意味を知ればわかる、ここはふたりを繋ぐ奇跡の道。

長い長いトンネル‥‥それはあの輝いていた奇跡のようにやさしい時間との距離。


ーーーやっとわかった‥‥わかったの!


ついに少女は出口にたどり着く。

顔にははじけるような笑み、かつては持っていなかった大輪の笑みが輝いていた。

ずっと長い間探し続けて‥‥読み解き続けて。

遂にたどり着いた青年からの問い。

そして明るいウィンドウを潜り抜けて、桃色の唇がひらかれ少女は叫ぶ。

もう抑えられなかったのだ。


「あなたが好き!!」


きょろきょろと見まわしながら、だんだんと声がゆっくりとなっていく。


「わたしを好きといってくれたあ‥な‥‥た‥‥‥が」


そこには、きれいに片付いた白い部屋だけがあった。

少女の答えを待てるほど、人はそこにとどまっていられなかったのだ。





「ま‥まっていると‥‥いってくれた‥‥」


少女の笑みは溶け消える。

白い部屋に影が差す。

午後の日をさえぎる厚い雲がぬけたのだ。

少女の白いワンピースの清楚なひだが、淡い影を帯びどこか怪しい色を透かす。


ぽとりと雫が落ちる。

少女の水色の瞳がうるみ悲しみをこぼすのだ。


「あ‥‥あぁ‥‥あぁぁあ‥‥」


力なく嗚咽が流れる。

ぽとぽとといくつも雫は落ち続ける。

深く長い思考の果てに見つけ出した答えは、届ける先を無くしてしまった。

歪んだ少女の笑顔が、表情を無くし白く固まっていく。

いつの間にか朱く変わった雫が白い服を染め真紅に変えていった。


雲が動き光りが戻るとそこにはもう少女の姿はなかった。

ただ白茶けた木の床に数滴の透明な雫をのこして。



部屋に一つだけ残されていた端末。

それは部屋に作り付けのもので、持ち去ることは出来ないのだった。

賃貸契約が切れ、片付けられてしまった部屋に唯一残っていたモニター。

その下端のフレームにはただ一文の言葉が刻まれていた。

小さく見逃され、消されることがなく、奇跡のように残っていた言葉。


『You are my everything, Selmia.』


青年がどうしても伝えたかった言葉は少女には届かなかった。


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