エピローグ

向日葵の向くその先で

 ーー*向日葵ヒマワリ*ーー


 向日葵という花がある。

 小さいものから、3メートルはある巨大なものまで、種類は様々。

 特徴は黄色い堂々とした大きな花弁を、その輝きに負けんと言わんばかりに、太陽に見せつけるように咲き誇る。

 その姿形は、よくよく見れば太陽を彷彿としてさせる。

 まるで太陽に憧れ、魅入られているかのよう。

 もしそうなら、その気持はわからないでもありません。


 向日葵という名を貰ってから、十年の月日が経った。

 友人であり、家族でもあるあの二人は、今では立派な社会人です。なんだか感慨深いですねぇ。

 私はと言うと、ただ寝て食ってばかりの穀潰しにはなるつもりはなかったので、異なる世界の知識をもとに、『名もなき勇者』という名前で、執筆活動をしています。

 いわゆる小説家。これでも、そこそこ売れっ子なのですよ。

 それにしても、この世界の文明のりきは素晴らしいですね。パソコン一台で仕事ができるなんて、便利な世の中です。


 え?私の寿命はって?

 そんなもの、神気の力で若さを保っているので問題ありません。

 不老不死とまではいきませんが、猫の本来の寿命の倍以上は生きてやりますよ。

 まだまだ、見守らなければならい者たちがいますからねぇ。

 ついでにギネス記録に名前を残してやりましょう。

 何猫なんぴとも、私の記録を練り替えられまい。

 ふふふ…。


「ヒマーー!」


 声のした方へ視線を向ける。

 すると小さな女の子が、両手を後ろに組んで何かを隠すように、満面の笑みで駆け寄って来た。


凪咲なぎさですか。私は今、手が離せません。もう少し待っててくださいね」


 私がそう言うと、少女は「ええ~?」っと口を尖らせた。

 親譲りの明敏な頭を持つ、素直で可愛らしい子。

 そして、夫婦となった私の友たちの、記念すべき第一子だいいっしです。

 その夫婦仲は今も円満で、もうすぐ待望の第二子も産まれます。

 たしか、男の子だということはわかっています。これからもっと、家の中は賑やかになることでしょう。


 パソコンに向かいながら、前足でキーボードを軽快に打つ。そんな私の横で、少女はイタズラっぽく笑ってみせた。


「そんなこと言っちゃっていいのかなぁ?チラッ…」


 そう言って、凪咲は背中に隠していた私の大好物を、これ見よがしにチラ見せしてきた。


「それは!?月見饅頭っ!!!」


「季節限定のハチミツメロン味だよ!」


「なんと!それを早く言いなさい!」


 私は作業を中断し、流れるように椅子からこぼれ落ちて、凪咲と二人で居間のテーブルへと向かった。


「えへへ、半分こね」


「もちろんです。それよりもいいのですか?おやつの時間には早いと思うのですが…。楓にバレたらなんと言われるか…」


「大丈夫!私のお小遣いで買った新しい月見饅頭を、冷凍庫にダミーとして入れてきたから!黙ってればママにもバレないよ!」


 ん~?なんというか…。まぁ、いいでしょう。

 氷菓が食べられるなら、私は何も言いません。


「んしょ!」


 凪咲はパッケージを開いて、中に入っているふたつの饅頭を、一個ずつ二枚の皿に盛り付けた。

 手際の良い動きで差し出されたお宝を前にして、私の食指は敏感に動いた。

 

「はいどーぞ!」


「ありがとう、凪咲。では!」


「「いただきます!」」


 凪咲は付属してあるプラスチックス製の串を手に取ると、饅頭を一突きし、美味しそうに噛りついた。

 私も早々に大口を開けて饅頭に食らいつこうとしたが、凪咲の小躍りする表情を見て、ふいに動きを止めてしまった。


「おいしー!」


 聡明な親を持つ彼女であっても、とろけるような甘味を前にすれば、あどけない子共の本性を露呈させる。

 その微笑ましい少女の素顔に、私の頬は釣られるようにほころんだ。


……ああ…なんて眩しいのでしょうね。

 

 そんなことを思いながら、私は遅れて饅頭を頬張った。


 あの日、ただ生きるために漠然と獲物を漁って、失敗して、川に流された私は、生きることを諦めようとしていた。

 どうせまた次がある…。底の見いない終わりが始まる。

 そうやって、死に慣れて、生きることを義務的に繰り返してきた。

 一人でいることが多かったからですかね。

 誰かとコミュニケーションをとること自体、かれこれ八百年以上なかった。その間は知性体と出会うこともなかった。

 そういう輪廻に囚われていると、孤独に耐えうるために、自らの精神性を無意識に削っていくんです。

 何も感じないように、ちょっとずつ…ちょっとずつ…。

 ですが今回の転生先では、驚くことに人類がいました。

 しかし私が生を得たのは、ニャーと鳴くことしかできない、小さくてか弱い生命体。どうせなら私もそっち側人間になりたかった。

 不幸な巡り合わせに、自分の運のなさを呪いましたよ。

 誰かに祝福を与えて、意思疎通を図ることも考えましたが、それで気味悪がられて、拒絶されることも怖かった。

 結局この世界でも、私はまた一人ぼっち。

 それでも私は、諦めきれなかったのでしょうね。

 私は、誰かの温もりが欲しかったのです。だから私は叫んだんだ。

 一人は寂しい、私は此処ここにいる。


──誰か私を見つけて、と。

 

 その願いは届き、未来が私を見つけてくれた。

 荒波をかき分け、我が身を顧みずに手を差し伸べてくれた姿に、私がどれだけ救われたことか。

 それからも、未来からは沢山のものを貰いました。

 友、居場所、家族、そして記憶思い出。それは確かに私の魂の奥深くに根付いて、暖かい感情を今も育み続けている。

 

──向日葵。


 この名もまた、未来から貰った大切なもの。

 この名に恥じぬよう、太陽のように瞬く愛するたちを──


 

  ──私は今日も、見守り続けるのです。




《未来で神様は猫を被った。》おしまい




 ーー*あとがき*ーー


 まずは、最後までご愛読してくださった貴方へ、本当に感謝を申し上げます。

 色採鳥イロトリドリ奇麗キレイの最初の作品、『未来で神様は猫を被った。』

 いかがでしたでしょうか。

 執筆作業を開始して約二年くらい、素人ではありますが、自分なりに渾身のストーリーになったのではないかと感じています。

 皆様はどう感じましたか?

 ぜひとも最後に、この物語の読んだ感想を頂けると幸いです。ここはこうした方がよかったんじゃない?などのご指摘でも構いません。

 何分、私は小説家素人。そう言った意見も耳に入れなければなりません。

 また、レビュー、高評価も頂けると次回作の励みになるので、よろしくお願いします。

 

 ここからは私ごとです。

 もともと私は、異世界モノの小説を執筆していたのですが、「なんかストーリーがグチャグチャしてるなぁ」と迷うことが多く、いったんすべてをリセットしてプロットを再構成しようとしていたところ、前々からしたためていたネタを使い、今回の作品を執筆するに至りました。

 当初は翔楼を主軸主人公にストーリーを展開させようとしていたんです。(翔楼の前に黒猫が現れるという展開は変わりません)

 ですが、この小説を読んでわかるように、翔楼というキャラの設定上、彼は途中退場を余儀なくされてしまうんですよね。そうして悩んだ挙句、「猫が主人公の方が面白くね?」という結論を叩き出し、最終的には未来が主人公の座を勝ち取るに至りました。

 しかもこれ、翔楼軸のストーリーを五万字くらい執筆してから思いついたんですよね……。五万字の努力が全部消えちゃった…ははは…。

 

 さておき、ここからが本題。

 ここからは、物語の裏話やその後を語っていこうと思います。 

 まずは翔楼と未来のその後について。

 実は翔楼と未来は、こことは異なる世界で、一緒に人として生まれ変わることができています。

 そこは農業を生業とする小さな村で、二人の妊婦から同日、同時刻、互いの存在を確かめ合うように、大きな産声をあげて産まれました。

 翔楼の生まれ変わりはリッジス、未来の生まれ変わりはフィオナと名付けられ、二人は病気もなくすくすくと成長します。

 その後は、黄金に揺れる広大な麦畑を見守りながら、二人は今度こそ生涯を共にするのでした。

 以上が、翔楼と未来のその後となります。


 次に雫。

 雫の来世は、彼女が夢見た通り、ちゃんと『』に生まれ変わっています。

 

 最後に無名ナナシです。

 結局、今回の物語を終えても、無名の正体はわからないままでした。というのも、理由わけあって、わざと触れないようにしています。強いて言うならば、『未来で神様は猫を被った。』は無名の物語の終着点のと言えるでしょう。

 いずれ、他作品で彼女の始まりに触れる作品を執筆するつもりでいるので、また時が来たら、その小説を手に取ってくれると幸いです


 さて、気になる次回作についてですが、今度こそ、してためていた『異世界モノ』の執筆に取り掛かっていこうと思います。

 この次回作は長期執筆になるので、『〇〇編』がひとつ執筆し終える毎に、小説を投稿していこうと思います。


 改めて、ここまで目を通してくださった読者の方々。

 ここまでありがとうございました。

 

 ぜひとも色採鳥イロトリドリ綺麗キレイの名を、憶えていって頂けると幸いです。


 ではまた、次回作で!


 さようなら!

 

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未来で神様は猫を被った。 色採鳥 奇麗 @irotoridori

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