第3話 地球外生命体の襲撃予告
生島がいくらでも奢るというので、カガリは異界防衛軍本部の食堂でたくさん注文をした。
十八の育ち盛りだ。
兵長という階級も、そう収入が多いわけではない。
牛丼、生姜焼き、親子丼と制覇していくカガリを、生島が微笑ましく見届けた。
お茶の水支部もまだ他の支部と比べれば都会のほうだが、一日で何種類もの肉は揃わない。
唯一の陸路だけで経済を回すのには、まだ日本は時間がかかる。
「他にも、なにか食べたかったら注文しなさい」
「タネさんに……種田上級兵にあとで恨まれそうです」
生島が穏やかに笑った。
オフィリア05部隊の隊長は、
もうすぐ四十になる種田篤は第二世代に当たる。上等兵だが、ベテランだ。
そしてカガリと同期だが、二等兵である
計四人が、オフィリア部隊の一隊にあたる。
「市内で、お土産に何か買ってかえるかね?」
「いえ、生島基地司令が払っては贔屓にとられますし……」
自分が払うにも、カガリはまだ初任給を貰えていない。
数日前まで学生だった身にはできない相談だ。
「では、基地全体に卵でも大量に買っていこうかね」
「はい! 喜ばれます。皆タンパク質には飢えてますので」
ちらりと同期同班部下の、
――基地司令の好意に甘えっぱなしでいいんですか。
兵長であり副隊長でもあるカガリに、敬語は使うが毒舌の彼女は平然と言いそうだ。
「あ、やっぱり――」
やめておきましょう、という言葉より先に、生島の携帯が鳴る。
通話しながら生島の顔が険しくなった。
「オフィリア05部隊に召集がかかりそうだ。
「いきます! 車の中に装備があるので、すぐに出ます。場所は?」
「文京区、湯島周辺だ。おそらく、政府回収に隠れてスマートフォンかパソコンを隠し持った住民がいたのだろう」
著名な学者などは、異界防衛軍に既に匿われている。
狙われるとしたら、先ずはそんな理由しかない。
駆け出して行ったカガリを追いながら、生島は不在中のお茶の水支部に思いをはせた。
副指令の剣崎は、熟練だ。
心配の必要は――ない。
***
戦闘シュミレーションは三年間やってきた。
大丈夫だと思いながら、冷えた手先に温度は戻らない。
初陣でお前より成績悪かったら一等兵になってやってもいい、そう宣言した同期の上官は不在だ。
あんなものいなくても平気だ――そう思いながらも、防衛高にいる間一度として実力は叶わなかった。
体力テスト、戦闘シュミレーション。桁違いだったと言っていい。
勝手にライバル視をしているが、不知火カガリ当人は月子をどう思っているのかは分からないままだ。
よくて、可愛くない女――今や部下――だろう。
向こうは勝手に出世していくだろうと思っていたら、まさかの同班で上司になった。
腐れ縁で、うんざりしているのは月子だけではないはずだ。
「そのうち慣れるよ」
標準装備を付けにいくと、上から声がした。
声の主は種田上等兵。
階級差は一つだが、隊内では今年二十八になる
そり残しのあるひげを搔きながら、グロッグ45とコープスイングを渡してくれる。
「緊張して、コープスイングから落ちるなよ?」
にやっと笑って、月子の背中を叩く。
食えないオッサンの一人だが、今はその笑いが頼もしい。
コープスイングは、異界防衛軍で一番重宝されている飛行機体である。長距離には白い翼におぶさり、空中戦闘では背負うと空中機動が出来る。
地上戦の時は、背中に盾として背負うことも出来る、
「グロッグの使い方は――わかっているな?」
月子は、口を結んで頷いた。
銃など
使う相手は人間だ――それも高い確率で同じ隊員に。
”撤退する時は味方の死体を担いで逃げろ。絶対に置き去りにするな。テキの手に渡るくらいなら、必ず脳を打て”
出来ることなら、一生使わないまま引退したい。
そう思っていることが既に軍にふさわしくないことも、知っているけれど。
「ゼノブレイドは持った? くれぐれも人のと間違えないでねー!」
身長145センチの、ぱっと見は幼く見える隊長なのだが実力は確かだ。
月子は、自分専用の細い太刀を抜きながら、その横にあるはずのダガーを目で探してしまった。
不知火カガリの専用武器は、ありなえいほどリーチが短い。
それもこれも、当人の身体能力がなせる技なのが、月子にとって悔しい。
カガリがいない今、初陣は自分一人だ。
ささやかな強がりとして、手が震えたことを見られなくて良かった、と思う。
きっと、カガリならば手は震えない。
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