第2話 防衛軍本部
検査室で、カガリは生島中佐と再会した。
会議が終わっての立ち合いだ。
生島の場合は検査結果より、カガリの心配で参加している。
「もう慣れてるので、中佐が立ち会わなくても……」
「いや、ぜひ立ち会わせてくれ。私は普段お茶の水支部から出られないからな」
検査機器を持っている人間、紙の書類を持って行き来する人間、と検査室の中は人が多い。
簡易着替えルームで、カガリは重たい礼服を脱ぎ、バイオメタリック・エクソスーツに着替える。
集団に観察される羞恥は、とうに捨てた。
異血覚醒してからというもの、そんなものは無駄でしかない。
検査台の上に横になると、ケーブル類が装着され、カプセルが閉じられる。
「異髄共鳴解析試験、開始します――」
「被験者、不知火カガり兵長。異髄、注入します」
温度のない声が次々と読みあげていく。
カガリは、もう雑然とした無意識の中へと入っていった。
「被験者の中枢神経と外部干渉波を量子干渉計で測定開始」
「脳波・心拍・霊子波・フォトン粒子流の同期率を算出」
「共鳴係数『Ψ-Index』により異髄覚醒度を評価――120%」
生島が、腰を浮かす。
ベテランや、エリート格の隊長クラスでも、異髄覚醒力は90%を滅多に越えない。
いつもは伝聞されてきた数字が、いざ目の前にすると驚異的だった。
「
「……相変わらずの好成績ですね。並みの軍人なら50
「不知火兵長も、計算上はバケモノですね。異髄の中でバイオメタリック・エクソスーツを着れば、VF細胞のオーバーバーストを起こしても不思議じゃないのに、この数値を安定して出せるとは」
研究職たちは、物慣れた風に会話しているが生島からすれば狂気の沙汰だ。
バイオメタリック・エクソスーツは、これまで倒した様々な
VF細胞という異物をいかに自分に慣らして使うか。しかし使いすぎては体に異常を起こすリスキーなものだ。
基本、軍の試験では異髄液に浸かり、覚醒度と覚醒した力で事務員と戦闘員に振り分けられる。
覚醒度は高ければ高いほど、優遇される。
しかし、同調率は高い数値になると使用時間のリミットが短くなるのだ。
肉体への負担数値とでもいえばいいのか。
戦闘職は、特にアドレナリンの上昇などでバイオメタリック・エクソスーツに含まれる
「――不知火兵長は、VF戦闘シュミレーションでもこの数字だというが」
生島の問いに、研究員はこともなげに頷いた。
「ええ。生島中佐の支部に入隊したので、不知火兵長の20
生島は唸る。
生島自身は、覚醒度80%同調率50
80
オーバーバーストして、そもそもまともに戦えない。
生島は基地司令となってから前線から遠のいているが、同じ第一世代では戦っている者もいる。
その同期たちと比べても、育ててきた不知火中将を含む第二世代を含めて、カガリのデータは前例がない。
異血覚醒というのが、先ずカガリしか例がないのだ。
「検査終了!」
「命令コード、確認。終了します」
異髄液がなくなり、カプセルが開く。
若干不機嫌な顔を隠せないカガリが、ゆっくりと身を起こした。
研究員が、その体からケーブル類を外していく。
「今月はもうこれで終わりでしょうか?」
「不知火兵長は、実戦はまだですよね? 実戦のあとでもまた検査します」
研究員は、戦闘中も細かく検査出来たらいいのにとこぼす。
堂々と検査できるのも、
そうでないと、パソコン類やスマホ、あらゆる研究資料、歴史書、文化財などと共に地下奥深くに収納隔離せねばならない。
しかし資源には興味がないので、今はまだ電気やガスが使えている。
「不知火兵長、終わったのなら食事にいかないかね? お茶の水支部よりはマシなものが食べられるだろう」
生島にねぎらわれ、カガリは軽く敬礼をして着替えに戻った。
異髄は、サラサラとしているので着替えに苦はない。
年頃もあり、おいしい食事を断る理由がなかった。
「久しぶりに缶詰じゃない肉が食えるかな……?」
せっかく積み込んでも、
貿易に依存していた日本は弱く、土地の多くを農場や牧場に切り替えたものの――。
異界防衛軍の支部や隔離されたデータ書庫などなどは、過疎地に多く存在している。
最近は、ようやく一般家庭にも新鮮な野菜などが届けられるようになったが軍への流通は遅れていた。
「いけるかね?」
「は!」
バイオメタリック・エクソスーツの上に、黒の軍服を着こんでカガリは検査室を後にした。
検査室はカガリ当人には構わず、データのことで盛り上がっている。
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