作者に主人公は荷が重い!

輝 静

第1話 努力型主人公だなんて荷が重い!

「君が悪いんだよ」


 暗い部屋でくぐもった声が背後からした後、私は背中を思いっきり刺された。

 ──そう。これは、私が殺されるまでの物語。


◇◆◇◆◇


 前世でやっていた乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。それも、処刑の刃が落ちる直前に。首が刎ねられ、一瞬の強烈な痛みを感じて目を覚めると、まだゲーム本編前の幼少期の姿になっていた。このまま何もせず過ごせば再び断罪され、あの痛みをもう一度味わうだろう。だから、日々研鑽を重ね、周りの人に優しくし、ゲーム本編ではヒロインと仲良くしつつ、ヒロインがやるはずの攻略対象達のトラウマによる心の壁を取り除き、無自覚にモテつつも友情ハーレムエンドに落ち着く。それが、私が考え、途中まで書いたネット小説、『悪役令嬢は舞い戻る』の内容だ。


 悪役令嬢物が流行っていた時に書いて、エタったまま一年くらい放置していた作品。そんな自分が創った世界の主人公、リーシャ・エイルに私は転生してしまったようだ。


「うん、いやなんで⁉︎」


 私に死んだ記憶なんてない。久々にサイトを見たら更新待ってますってコメントを見て、完結させなきゃなって思いつつも筆を動かすなんて事はせず、そのまま寝て起きたら見覚えのない姿になっていた。


 見覚えはないのになぜ自作品に転生したのか分かるのかというと、何度も小説を書きながら思い浮かべていた姿だったからだ。黒髪黒目で少し目が吊り上がってキツイ印象を与える美人──いや、今はロリだから美少女の姿。曖昧だった部分もしっかりと描写……ではなく実体化されていて、図らずも自キャラの姿が文字ではなく物体として見ることができて感動している。感動しているのだが、私自身がなるのは断じて違う! どうせなら書籍化とかアニメ化で拝みたかった姿だ!


「ぐぁーーーー⁉︎ こんな世界に転生してしまうとは! なんでなんでなんで⁉︎ 嫌だー! 断罪回避しないといけないの⁉︎ 嫌だー! リーシャと同じ事するなんて嫌だよー! なんでチート能力持たせなかった、中世ヨーロッパ風の舞台にした、そもそもなんで努力型主人公にしちゃったんだ私! こんなことになるなら現代世界舞台のチート主人公の作品書けばよかった!」


 努力なんて、私から最も離れた位置にあるものだ。テスト勉強も三日前からようやく取り掛かったふりをして、課題に関しては当日まで焦って答えを見ながら、解いたフリする為に適度に間違えを書いて終わらせるし、テストの点数なんて赤点回避の事しか頭にない。もちろん運動なんて自分からした事も一切ない! そもそも私は陰キャだ! 自分から人に声をかけるなんてできない!


 その点、リーシャは断罪を回避する為に常に知識を蓄え続け、剣に魔法にと転生直後の七歳から高め、自分の意見をはっきり言うし、拒絶されようと人に寄り添うしで、私なんかとは全く正反対のキャラだ。そう、まさしく作者の理想を詰め込んだ主人公サマなのだ!

 そして、お決まりの暗い前世持ち。しかし、私に暗い前世なんて一切ない。あまりのダラしのない生活に親は呆れるものの、我儘言えばある程度は聞いてくれるし、割と愛情持って育てられている凡人なのだ。


 そんな正反対の私が、理想の主人公サマをやらないといけないの⁉︎


「は、はは……ははは……」


 そんなん、乾いた笑いしか出ないや。

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