天使の作るお昼ご飯


 すぐに用意するのでちょっと待っていてくださいね、と言われリビングのソファに座ってボーっと待つことになる。大きなテレビが置いてあるけど当然どのチャンネルも映らない。というかそもそもこの島に電波とか届くんだろうか。一応持ってきたスマホも電源を入れてみるけどオフライン状態で起動できるものしか使うことができない。試しに何かの広告でみたゲームを起動したらなぜかプレイできてオンライン対戦じゃなくて全部CPUと戦わされたことに驚いたぐらいだ。

 待っている間なんとなくソワソワしとくのも嫌なのでせっかくだからソファに体重を預けてみる、身体がソファに沈んでいきそれと一緒に緊張もソファに吸い込まれていくようだ。そのままリラックスして海を眺めているとキッチンからいい匂いが漂ってくる。その匂いでさらに空腹を意識することになり今日世界が滅んでなかったら朝ごはんはなんだったんだろうなぁとぼんやり考える。そうこうしているとダイニングのテーブルに食器を置く音がしてそちらを振り向く。


「おまたせしました」

「もうできたんですか?」

「はい。本当に簡単なもので申し訳ないですけどお腹が減っていると思い速度を優先しました」


 テーブルを見てみると鮭の塩焼きに目玉焼き、葉野菜をちぎったサラダにホカホカのご飯、それと味噌汁が並んでいた。


「めちゃくちゃ立派な食卓じゃないですか」

「お味噌汁はインスタントですし鮭も冷凍していたものを焼いただけですから……」

「本当に手際いいんですね」

「花嫁修業をこなしている、といったでしょう?」

 

 ふふん、とお玉を手にもってドヤるエプロン姿の天使。なんかさっきまでちょっと怖かったたりしてたのが一気に親近感が湧いてくる。


「冷めないうちにどうぞ」

「はい。いただきます」


 鮭を一口分外し口に含む、そのまま追うようにご飯を口に運ぶ。


「……うっま」


 家で食べてた冷凍の鮭はこんなもんだよな、って感じの味や食感だったけど今食べているのは実はさっき釣ったばかりなんじゃないかと思うぐらいにふわふわで美味しい。思わず無言になってしばらく食べ進んで一度味噌汁を飲んで気持ちを落ち着かせる。


「めちゃくちゃ美味しいです!」

「それはよかったです、何も喋らないから少し不安だったんですよ?」

「すみません……お腹減っててつい無言で食べちゃいました」

「それぐらい美味しかったですか?」

「はい!なんか食材一つ一つが美味しくて野菜とかこれドレッシングとかなしでいけますね」


 そういいもしゃもしゃと野菜を口に運ぶ。マジで美味い。


「ここにある食材は殆ど天界で採れたものですからね。地球で育ったものとはかなり違うと思いますよ」

「へぇー、てことはステラさん達天使も食事をされるんですか?」

「いえ私たちは趣味程度にしか食事をしませんよ」

「そうなんですね」

「はい。天界でそういったことをしているのは実験だとか天界で育てている動物の為だったりしますね」

「なるほど」


 天界と何度か聞いて雲の上にあるきゃっきゃうふふしてそうなメルヘンなイメージをしていたけど実際はもっと地球みたいな生活をしているのかもしれない。こういうのもの今度聞いてみないといけないかもしれないな。なんて色々考えながら食事を進めていく。ごはんが美味しかったこともありあっという間に食べ終わってしまった。


「ごちそうさまでした」

「はい。夜はもっとちゃんとしたものを用意しますね」

「ちょっと期待しながら待ってます」

「ふふ、期待しててください」


 食事をしながら色んな雑談をしたからかステラさんと少し距離が縮まったような気がする。少なくとも少し前まであった警戒心はかなり薄れてきた。というかこんな美少女、美天使とずっといたらいつかは絆されるに決まってるよな、なんて心の中で言い訳をしつつ食器を台所を持って行って洗う。作って貰ったならこれぐらいはするべきだ、親に言われたことを思い出しながら洗い物をしているとステラさんが隣に立つ。


「洗い物してくれるんですね」

「やって貰うばかりはダメだって親に教わりましたからね、それにステラさんにはこれからもお世話になるでしょうかやれることはやっておきたいと思ったんです」

「いいご両親だったんですね」

「そうですね……」


 もう二度と会えないんだよな、と少し顔が曇る。昨日の最後の会話はなんだっただろうか。特に雑談するわけもなく適当に話を流しておやすみすら適当に言った終わった気がする。今度ステラさんにもう一度家まで送って貰ってありがとうとかちゃんと伝えたい。

 洗い物は一瞬で終わって二人でコーヒーを飲みながら今後のことを話す。


「とりあえず奏良さんの着替えとか必要でしょうし落ち着いたらもう一度向こうに戻りましょうか」

「いいですか。スマホしかもってないしなんなら今着てるのめちゃくちゃ部屋着ですからね」

「急に連れ出してすみません……でもそのダサTシャツも似合ってますよ?」

「それ褒め言葉ですか?」

「褒め言葉ですよ?」


 ふふっ、と微笑みながらそう答えてくれる。それからも二人で今後のことを話しながらゆったりとしたコーヒータイムを過ごした。

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