可愛い俺
せおぽん
可愛い俺
幼い頃から、俺は可愛い顔をしていて何かと得をしてきた。
赤ん坊の頃は近所のおばさん達のアイドルで、
毎日キス攻めに遭い、俺のほっぺはいつも涎でベトベトだった。
幼稚園の頃は、普通に歩いているだけでお菓子を貰えた。夕飯を食べられなくなると親に叱られたものだ。
小中高もモテモテで、女の子の集団があれば
その中心には必ず俺がいる。と冗談になるほどに、俺の可愛さは有名になっていた。
大学に入る頃には、俺は確信していた。
「俺の可愛い顔は無敵」なんだと。
実際、女に養われるヒモ生活だって余裕だった。気に入らない女はすぐに振った。すぐに別の女が養ってくれるから。
だが四十を過ぎた頃から、身体が俺を裏切り始めた。不摂生な生活で腹が出てきた。髭も濃くなった。朝に綺麗に剃っても昼には青くなっている。
それなのに…、顔は可愛らしいままなのだ。肥えた中年の身体に可愛らしい子供のような顔が乗っているのだ。
五十になりハゲた。僅かにまだらに残る毛が余計に見苦しい。
六十で腰が曲がり、歯も抜けた。
それでも、顔だけは昔のまま、幼く可愛い。
いつからだろう。
人が俺を見る目が、“可愛い”ではなく“気持ち悪い“に変わったのは。
背が低く腹は出ていて頭の毛は無い、さらには性格までも悪い。顔だけがかわいらしい六十の男。
皆は気味悪がって、いつの間にか俺の周りには
誰もいなくなった。
俺は鏡を見て、笑ってみた。昔と変わらない幼く可愛らしい笑顔。
しなびれた皮膚。
曲がった腰。
たるんだ腹。
毛のまだらな頭。
隙間だらけの歯。
顔だけが幼く可愛らしい俺が、鏡の中で笑っている。
可愛い俺 せおぽん @seopon
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